Written By: sax on 7月 17, 2019 No Comment

サックスは「擦れ(こすれ)」ます。使い古されたサックスは、あっちこっちが擦れて「禿げて」います。悲しい楽器です。
 親戚筋にあたるクラリネットも、擦れるキー構造を持っています。サックスでは指の先端が触るキーの部分に、貝殻、もしくはプラスチックの「指貝(ゆびかい)」という丸い素材が埋められていますが、クラリネットではこれがありません。指の腹でトーンホールを塞ぐキーが多いのがその理由ですが、パームキーに当たる指の腹や手のひらで押さえるキーは、 サックス同様むき出しの金属です。なのに、「はげはげ」のクラリネットはあまり見かけません。どうしてでしょうか。クラリネットのキーには、ほとんどの場合銀メッキがかけられているので、ラッカー塗装が多いサックスよりは、「擦れ」に強い事は事実です。しかしそれ以上の「禿げの差」の理由があります。クラリネットはキーが小さく、ストロークも少ないのです。これによってクラリネットのキーは、サックスに比べて触る手の圧力も小さければ、擦る力も、擦る範囲も小さいのです。クラリネットのキー操作は、「ちょっと触るだけ」 なのです。それに比べてサックスのパームキーは力強く押しますし、擦ります。フレーズによっては、パームキーを一所懸命擦り上げている場合も少なくありません。だから「禿げる」 のです。これを防ぐためには、パームキーの擦れ易い部分に、クリアのマニキュアを塗るサックス奏者もいるようです。もちろん「禿げる前」です。自分の運指をひとつずつ確かめてください。左手の「レ」のパームキーとか、力いっぱい擦っていませんか?そうなんですよ、 サックスのキーって普通の運指で、とっても擦れる構造なんです。禿げないように上品に操作しようとしても… 無駄だと思います。

 サックスには擦れて禿げるところがまだあります。それは二番管(本体)の左側です。この場所はサックスの構造上キーの空白地帯になっており、多分設計者のアドルフサックスも、 このあたりを「奏者とサックスの接触場所」として設定していると思われます。奏者の体に接触しないソプラノ以外は、多くの奏者がサックスの二番管左側を体の右側に接触させて演奏します(アルトは体の中心で吹く奏者も多いですね)。主に座奏が定型のビッグバンドのテナー奏者が、一番この場所をいじめていると思います。演奏中、太ももの右側が常に二番管左側を擦っていますよね。演奏時にデニム・ジーンズばかりをはいているテナー奏者で、 自分のサックスの左側が真っ青になってしまっている人を見たことがあります。それだけここは「擦れる」んですね。ここの擦れによる「禿げ」を防ぐ方法は… なるべくスベスべのズボンをはくことぐらいでしょうか。かといって、このあたりにクリアラッカーを厚塗りしたりすると、サウンドが変わってしまうので止めたほうが良いと思います。サックスのラッカーの禿げの補修が得意なリペアさんもいらっしゃるので、気になる方は相談してみてください。

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Written By: sax on 7月 10, 2019 No Comment

ご存じ「世界のナベサダ」は1933年栃木県生まれの86歳、偉大なアルトサックスおよびフルート奏者です。歳を感じさせない熱い演奏で、ジャズファンのみでなく、多くの音楽ファンを魅了しています。栃木県立宇都宮工業高等学校を卒業後、1951年に上京。銀座のクラブ等で演奏活動を始め、1953年には穐吉敏子率いるコージー・カルテットに加入しました。 1958年にはジョージ川口ビッグ4に参加し、1961年、28歳にして初リーダーアルバム『渡辺貞夫』を発表しています。渡辺貞夫の歴史そのものが、日本のジャズの歴史と同期していますので、彼の音楽遍歴は多くの資料で取り上げられています。ボサノヴァとナベサダ、アフリカとナベサダ、クロスオーバー(フュージョン)とナベサダ、等の資料については、数多くの記事がネット上に溢れています。ですので、ここでは少し斜めから見た「ナベサダの偉業」にスポットを当ててみたいと思います。
 ジャズプレーヤーの立場から渡辺貞夫を語るとき、彼が日本で広めた「バークリー・メソッド」を取り上げないわけにはいきません。ボストンのバークリー音楽院で教えている音楽理論がいわゆる「バークリー・メソッド」なのですが、バークリー音楽院では音楽を記号化・理論化し、整理することに成功しました。今、世に知られているポピュラー音楽のコードの理論やコード進行の約東事等は、すべてこのバークリー・メソッドによって解説されていると言って良いでしょう。1962年から3年間バークリー音楽院に留学した渡辺貞夫は、1970 年に「Jazz Study」を出版し、そこにバークリー・メソッドのすべてを記しました。当時のバークリー・メソッドの特徴として、権利等に関し寛容かつ無頓着であり、卒業生たちが自国に帰って自由に教えることを許容していました。ナベサダは私塾を開いたりして、多くの後進に「理論的なジャズの分析法」を教え、それまで「雰囲気」に左右されていた日本のジャズを、一気に理論的に進化させたのです。バークリー・メソッドはブルースの研究から始まり、「ブルースのサウンドの格好良さを、理論的に説明する」ことを突き詰めたとも言われています。ナベサダ以降、我々は「カッコ良い演奏をする理論」を手に入れたのです。
 渡辺貞夫は優れたフルート奏者でもあります。フルートは、日本フィルハーモニー交響楽団の首席奏者だった林リリ子さんに師事しています。バークリー入学前の7年間、彼女の元でみっちりとクラシックフルートを学んだそうです。そのレッスンをひとつのきっかけとして、「それまでジャズ以外の音楽に耳をふさいでいた自分が、少しずついろんな音楽へと心が開を開いていった」、と自らを振り返っています。渡辺貞夫というミュージシャンがジャズプレーヤーに留まらず、あらゆる音楽ジャンルをも取り入れる、どん欲な音楽表現者として今も活躍しているのは、こんな経験が基になっているのかもしれません。

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Written By: sax on 7月 3, 2019 No Comment

梅雨の時期から夏場にかけて、日本の多くの地域はもの凄い「湿気」に覆われます。ジメジメ、ムシムシと人間にもキツイ季節ですが、楽器達にも過酷な季節です。サックスも例外ではありません。
 サックスは管体が金属で出来ているので、木管楽器の中では湿気には強いほうです。クラリネットやオーボエは、過剰な乾燥と湿気の繰り返しを被ると、管体自身が割れてしまう場合があります。恐ろしいですね。サックスの湿気対策の注意の対象は、金属面への結露、そしてパッドとコルクです。暖かい空気は水分を沢山蓄えることが出来ますが、冷えると水分の保有能力が落ちます。これを飽和水蒸気量と言い、温度が高いほど沢山水蒸気を抱えることが出来ます。そして温度が下がると飽和した水分を外に出し、それが水滴となって液体化します。それが結露です。サックスの基本的な結露は、奏者の体内から出た温かく湿った息がサックス管体の金属によって冷やされ、管体内部に付着する水分です。サックスをしばらく吹き続ければ、ベルの底には流れ出るほどの水が溜まります。演奏だけでなく、暑い野外からエアコンで冷えた室内に楽器を運んだだけでも結露は生じます。そして管体内の水分は、ホコリを取り込んで固まり、パッドとトーンホールの間に隙間を作ったり、金属面を錆びさせる原因となります。演奏後は必ずクリーニングスワブを管体内に通し、水滴をぬぐっておくという手間が重要です。

 サックスの重要な部品、パッドとコルクにも湿気対策は必要ですが、実を言うと重要なのは、湿気対策というより「乾燥対策」です。パッドもコルクもある程度水分を帯びているほうが好ましい状態です。適度に水分を含むことでしなやかさと弾力を保ち、息漏れを防いだり、キー操作のショックを和らげたりの役割を果たすことが出来ます。しかしパッドもコルクも、乾燥するとカチカチになってしまいます。そうなるとそれぞれの役割に支障が出てきます。一番避けたいケースが、ビシャビシャに濡れた状態からカラカラに乾燥し、またビシャビシャに湿るという繰り返しです。この最悪の繰り返しによって、ご想像通りパッドもコルクも曲がり、歪み、場合によっては「外れ」ます。こうなったら、もう入院です。
 梅雨から夏の時期にかけては、サックスを湿気の多い状態に放置することは避けてください。ただし過剰な乾燥や高温も良くありません。サックスケースに乾燥剤を入れる方がよくいますが、程度問題です。ケース内の余分な水分を吸収し、カビや雑菌の繁殖を防ぎ、嫌な臭いを防ぐ程度が適当です。乾燥しすぎないよう注意してください。サックスを車の車内やトランクに長期間放置するのも良くありません。この時期には、サックスのケースの蓋を開けた状態で部屋で保管する、というサックス奏者も少なくありません。

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Written By: sax on 6月 26, 2019 No Comment

松本英彦は「日本のジャズ」を作ったミュージシャン達のひとりで、日本のジャズの歴史に残る偉大なテナーマンです。1926年岡山県に生まれ、18歳でプロ活動を開始、いわゆる「米軍キャンプ」のバンドを経て、日本のジャズブームの中心となる「ビッグフォー(ジョージ川口(ds)、中村八大(pf)、小野満(b)、松本英彦(ts)」で活躍することとなります。日本ジャズ界への多大な貢献を評価され、1991年には紫綬褒章を受章しています。肺ガンの手術後の医療ミスが元で全身麻痺となり、3年近い闘病生活の末、2000年に73歳で亡くなりました。
 ニックネームは「スリーピー松本」。細い目が演奏中に眠っているように見えるからとか、コンサート中にピアノの横で居眠りをしていたから、とも言われているこのニックネームは、常に温厚な微笑みを絶やさない、大きな包容力を感じさせずにはいられない松本にとって、最適のニックネームだったことでしょう。第二次世界大戦終了後、それまで禁止されていた欧米の音楽が怒涛の如く日本に流入し、それに刺激を受けた多くの若い演奏家たちが「バンドマン」となりました。米軍キャンプのパブやダンスホールで演奏し、本物のジャズを勉強しながら、自己の技量を向上させて行きました。その背景には、敗戦日本政府が米進駐軍の要請に応えるかたちで始めた、演奏家の派遣業務があります。国内の演奏家を集め、米軍キャンプや基地、ホテルに設けられた米軍高級将校や軍属の宿舎に派遣し、演奏させる業務です。プレイヤーの絶対的不足により、日本人プレイヤーたちはそれなりに歓迎され、多くの演奏場所がありました。それゆえに極端に言えば、楽器をもってさえいれば、何かしらのバンド仕事にありつける状況だったようです。そんな玉石混合の状況の中から、スリーピーたちのような「本物」が巣立ち、日本のジャズを作り上げていったのです。

 松本英彦のサウンドは、あくまで太く、温かく、スムースな正統派のテナーサウンドです。奏法も、「呼吸するように」自然で無理のないものになっています。息の吹き込み、ブレス(息継ぎ)、タンギングを、まるでサックスが自分の声であるかのように歌っています。これほどスムースなテナーの演奏は、世界的に見てもそれほど多くはないでしょう。彼は多くの後進にサックスのレッスンをおこないましたが、指導を受けた多くのサックスプレーヤーが、彼の論理的で無駄のない奏法や、練習法の合理性に驚嘆したと述べています。スリーピーは1979年に購入した、HセルマーのマークVII GP(ゴールドプレート)をずっと愛用していました。後期のマークVIIで、かなりSA80系の技術も採用されていそうです。マウスピースは主にベルグラーセンのメタルで、典型的な「豪快テナー系」です。

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Written By: sax on 6月 19, 2019 No Comment

サックスのサウンドの源は、言うまでもなく先端のマウスピースに装着されたリードの「振動」です。奏者の息のエネルギーで発生したリードの振動が、マウスピース、ネック、サックス本体へと伝わり、最終的にサックスのサウンドに変化して聴衆へと届きます。ですので、サックスのサウンドを考えるときには、「振動」を考えることが不可欠です。
 「音のエネルギーをロス無く楽器に伝える」、はサックスにとっての永遠の課題です。古くはアメリカンセルマー製マークVIで採用された、「U字管をはんだ付けする」という手法がありました。接着剤やネジによる締め込みが一般的なU字管の接続を、金属はんだでロウ付けし、振動の伝達率を上げ、かつ息漏れを最小限にしようというアプローチです。これによって、「さすがアメセルは反応が違う!」と言わしめたようですが、今の製造技術で考察すると、必ずしも効果があるかどうかは分からないようです。このU字管のように、サックスには沢山の「つなぎ目」があります。そしてそこの接続を密にすれば、きっと良い音がする、というのが「振動伝達」のコンセプトです。

 サックスのつなぎ目には、リードとマウスピースをつなぐリガチャー、ネックコルクを介したネックとマウスピースの接続、ソケット構造によるネックと本体の接続、そしてU字管があります。「振動伝達」を考えると、サムレストやサムフック、ストラップリングのような、「ここから振動が逃げる」、という場所もありますが、今日は置いておきましょう。リガチャーの種類や構造に関しては膨大なバリエーションがあり、単なる振動伝達に留まらず、振動の成分を調整する発想のリガチャーも少なくありません。ネックコルクの振動伝達改善には、最近多くのアクセサリーが発明されています。「小判型」の金属板をマウスピースとネックの金属部に渡して、マウスピースの振動を積極的にネック側に伝えるアクセサリーが人気のようです。またリガチャーから伸びた金属棒をネックに触れさせ、リードの振動をネックに直接伝えようとするアクセサリーもあります。炭素系の超微粒子を特殊処理でオイルに溶かし込んで作られた、金属接合部の振動伝達性を向上させるオイル、というものもあります。ネックジョイントだけでなく、リガチャーや本体のネジ部に注しても効果があるようです。U字管のはんだ付けも、接合に使うロウ材(溶かす金属)の成分を変えることで、音の伝達効率や、伝達する音の成分をコントロールする技もあるようです。同様に、ネックコルクをネックに巻き付ける際の接着剤も、ゴム系の接着剤を避け、常温で硬化するシェラック(パッドをカップに接着するもの)を好んで使うサックスプレーヤーも多いようです。「振動」の事を考え始めると、ほんと、「しんどお」いです。あは。

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Written By: sax on 6月 12, 2019 No Comment

2007年の年が明けて間もない1月13日、多くのジャズファンを呆然とさせた彼の突然の死。偉大なジャズテナー奏者でありEWI(エレクトロニック・ウィンド・インストルメント)奏者のマイケル・ブレッカーが、骨髄異形成症候群から進行した白血病のため亡くなりました。死のまさに直前まで、マイケルは最前線で時代の音楽シーンをけん引していました。生まれ持った才能と弛まない努力によって、彼は最高の技術とセンスで、素晴らしい音楽世界をファンに届けてくれました。
 ブレッカー・ブラザーズやステップス・アヘッドといつた、兄、ランディ(Tp)と共同リーダーを務めたバンドでの活動に加え、自己のリーダーバンド、スタジオ・ミュージシャンやツアーバンド・メンバー、フィーチャード・ソロイストとしての活動も幅広く、関わった録音も多様なジャンルに渡り、その数は1,000を上回ると言われています。マイケル・ブレカーを「20世紀を代表するテナーサックス奏者」と言っても、誰も異論は唱えないでしょう。57歳で亡くなる直前まで新作のレコーディングを進めており、そのアルバム「PILGRIMAGE」が遺作となりました。病室にEWI等の機材を持ち込んで、レコーディングを続けていたそうです。彼の正確無比なサックステクニックは、比べられる奏者もいないほどの至高のテクニックであり、一部のファンには「機械的過ぎて冷たいサウンド」とも言われましたが、没後発表された『UMO JAZZ ORCHESTRA WITH MICHAEL BRECKER LIVE IN HELSINKI 1995』では、キャリアの集大成を迎える絶頂期のマイケルのサウンドが熱くうねりを上げており、兄、ランディ・ブレッカーも、「マイケルの最高のプレイのひとつだ!」、とそのクォリティの高さに驚愕したと言われています。

 ファンクやフュージョンジャズと呼ばれるジャンルで主に活躍したマイケルは、いわゆる「電子化サックス」の先駆者でもありました。バーカスベリー社のリード貼り付け型ピックアップ、モデル1375を1970年代のブレッカー・ブラザーズで使用しており、また1980年代にはネックに穴をあけて装着するピエゾタイプのピックアップをラックタイプのシンセサイザーに接続して演奏しています。「Steps Ahead」の1986年の厚生年金会館でのライブでは、EWIの前身である「スタイナーホーン」を吹いており、サンプラーや複数音源を駆使した一人オーケストラ的演奏は必聴です。1988年には本格的にAKAIのEW11000を使用し始めています。当時ヤマハのメカキータイプのサックスシンセサイザーWX7も発売されていましたが、マイケルは静電タッチキータイプの AKAI製を終始使用していました。スピーディーな運指を突き詰めるには、触れるだけで感知される静電タイプが向いているとのコメントも残しています。
 マイケル・ブレッカーのことを書き始めると、まったく紙面が足りません。とにかくマイケル、凄いっす!

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Written By: sax on 6月 5, 2019 No Comment

サックスの値段は入門用で5、6万円、長く使い続けられる標準品で20万から40万円、憧れのプロモデルなら50万から80万円あたりというところでしょうか。すごい価格幅です。市場価格100万円を超えるセルマーマークVIなどの「ヴィンテージ名器」を使用している方からは、「入門用?あ、おもちゃのサックスね。」なんて中傷ぎみたコメントを聞くこともあります。安いサックスは、本当におもちゃなんでしょうか。
 廉価版のサックスは、確かに欠点は少なくありません。サウンド的な観点で言えば、「響きが単調」、「音域で音色が変わる」、「音量が出ない」、「音程が取り難い」等。また、機械的な性能で言ったら、「調整が狂い易い」、「バネの反発力が不均一で運指がやり難い」、「曲がり易い」、「へこみ易い」、「錆び易い」なんて、まあ、キリがありません。これらがサックスの価格の差で出てしまうのですね。機械構造で出来ている工業製品の価格差の原因は、ほとんどの場合「人件費」です。よほどの大量生産のモノでない限り、どれだけ人間が手をかけて作っているかでコストは増減します。かたや、多くの経験豊かなリペアマンの方々が口を揃えて言うのが、「安いサックスでも、それなりに手を入れれば充分に上級者の戦力になるサックスに化けるよ」、ということです。基本的にサックスは、定期的な調整を必要とする繊細な楽器です。パッド(タンポ)も消耗品ですし、使えば使うだけサックスの可動部には「狂い」が生じてきます。名器だって調整しなければ「動作不良サックス」ならば、「おもちゃのサックス」と言われる廉価版サックスだって、手を掛ければ充分魅力的な楽器に生まれ変わるのです。

 サックスのオーバーホールは安くて10万円、多少面倒な調整が入れば15万円くらいは必要です。しかしこれで、パッドの全交換、針バネの交換調整、キーバランス調整(パッドとトーンホールのすり合わせ、キータッチの調整、パッドの開き具合の調整、等)、可動部の磨き、オイル差し、等の作業がおこなわれます。ネックスクリューやベル支柱ネジなどを交換すると倍音が豊かになったりします。リペアマンによっては音質改善のための細かな裏技を持っている方々もいます。ネックのトーンホールを大きくしたり、ネックの先端に金属リングを溶接したり、U字管をはんだ接着したりと、色々なテクニックがあるようです。サムレストとサムフックを金属製に替えるのも、音質改善に有効です。マウスピースも「一流品」が良いですね。吹き易さも、音質も楽器付属のモノとは段違いです。おお、凄いですね。ここまですれば、かなり良い音の出る、良いサックスになっているはずです。しかしここまで手を掛けると、そこそこの中級サックスが買えるくらいのお金を費やしていますね。あっ!大事な事を忘れていました。吹き手が高い技術を持ったサックス上級者にならなければ、どんな良いサックスだって、ただの金属の塊ですね。

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Written By: sax on 5月 29, 2019 No Comment

日本のジャズ雑誌で「グロテスク・ジャズ」などと、とんでもない呼び方をされたこともあるジャズサックス奏者、ローランド・カークは1936年アメリカ、オハイオ州に生まれました。1975年に脳卒中の発作を起こし、右半身麻痺になりましたが、左手だけで演奏できるように楽器を改造して音楽活動を続け、1977年にインディアナ大学での演奏を終えた直後、二度目の脳卒中の発作を起こし42歳の若さで亡くなりました。彼は幼少期に、病院で点眼液を間違えられたことから両目の視力を失っています。小さな頃からトランペット、クラリネット、サックスなど、様々な楽器を手にしていた彼は、あるとき3本のサックスを同時に吹いている自分自身の夢を見たそうです。その夢に運命を感じた彼は、その後本当に3本のサックスを吹くための特訓に挑みました。そして、この3本サックスの同時演奏は彼のトレードマークとなりました。サングラスをかけた巨漢の黒人が、首から提げた3本のサックスを同時に吹く姿は、見た日だけで言ったら確かに異様で「グロテスク」だったのかもしれません。

 ローランド・カークは「マルチ楽器奏者」です。良くあるマルチリード奏者ではありません。一人で、サックス、フルート、トランペット、オーボエ、ピッコロ、ブルースハープ、イングリッシュホルン、などなど、多種多様な管楽器を卓越した技術で演奏します。そのうえ同時に数本のリード楽器を吹き、鼻でフルートを鳴らしながらスキャットを口ずさみ、同時に手回しサイレンやホイッスルを鳴らします。しかも、息継ぎの無音時間を無くす高度な演奏技法である「循環呼吸」をも実践し、音が絶えることなく響き続けます。こう紹介すると、フリージャズ系の無秩序なサウンドの洪水をイメージされる方が多いと思いますが、ローランド・カークのサウンドは違います。メロディアスで、ファンキーで、立体的なハーモニーを持っています。同時に吹く楽器のすべては、完全に彼の意思のもとにコントロールされ、リズミックに和音を構成する「ひとりオーケストラ」になっています。彼の音楽を一度でも聴いたなら、「グロテスク・ジャズ」などという呼称とは180度異なっていることに気づくはずです。
 彼のサウンドは、独特なユニゾンとハーモニーを持ってミステリアスに響き、ユーモラスでありながら、どこか悲しみを宿したブルージーな響きを聞かせることもあれば、かたや肉声に近いサウンドと、エモーショナルなリズムによって、R&Bやソウル・ミュージック的なポップワールドを実現することもあります。まさにローランド・カークの唯一無二のサウンドです。その場のインスピレーションで曲も楽器も替えてゆくには、使える楽器をすべて手元に置く必要があり、合奏のタイミングを完璧に合わせるには、複数の楽器を同時に自分で吹く必要もありました。複数楽器のアンサンブルに自由度を与えるには、息継ぎをせずに息を出し続ける必要がありました。盲目の天才、ローランド・カークにとって、彼のスタイルは必然的な選択だったのでしょう。

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Written By: sax on 5月 22, 2019 No Comment

久々に斬新で、画期的なサックスアクセサリーが開発されたようです。名前は失念しましたが、サックスのクローズキーカップに装着し、そのパッドを開いたままに固定するアクセサリーだそうです。それによって普段は閉じているパッドが外気に触れ、演奏後も早くに乾燥し寿命が長くなると同時に、パッドの表面にトーンホールエッジが押し当てられることで付いた溝が膨らんで浅くなり、トーンホールの密閉度が高くなる、ということだそうです。確かにG♯、E♭、C♯のキーはほとんどの場合に閉じており、管体の中の湿度満点な空気にいつも触れています。サックスを演奏していないときぐらい、外の世界の空気に触れて適度に乾燥させることは良い事なのでしょう。
 かたや30年以上前から存在する、サックスのマニアックアクセサリー(?)に「サックス・クランプ」というものがあります。名前や構造が違うものが数社から出ていますが、こちらは、「開いているキーを閉めて止めておく」道具です。サックスは工場から出荷される際、輸送時の振動でキーの調整が狂わないよう、各所にコルク材を挟んで、キーがすべて閉じた状態にして箱詰めされます。キーカップがトーンホールから離れた状態でサックスが激しく振動すると、シャフトから枝のように伸びたキーカップがテコの原理でおもりになり、シャフトとの接続部に力がかかってキーバランスが狂ってしまうのです。「サックス・クランプ」はいくつものコルクの役割を特殊な形状のワイヤ等で代用させ、サックスのすべてのキーを閉じた状態に簡単に固定させることが出来るアクセサリーです。また、サックスのパッドを全交換したときに、「パッドをトーンホールに馴染ませる」目的でサックス・クランプを使用するリペアマンも少なくありません。

 ということで、「え~?パッドは閉じるの、それとも開けるの?」という疑間が湧くわけですが、賢明な読者の方々は既にお気づきと思います。保管時にはパッドは開け、輸送時・移動時には閉じておきましょう、ということですね。サックスを使用しないときは、掃除した後にすべてのキーを開け、ケースにも仕舞わずにスタンドに立てかけて放置しておくのが最良でしょう。低音域のキーだけでなく、ネック側に近いパームキー等のパッドも開けておくと、より効果がありそうです。そしてサックスをケースに入れて持ち歩くときにはパッドは閉めよう、ということですね。これはバリトンサックスのようにトーンホールが大きく、カップも大、という部分が多いサックスに効果が大きいでしょう。これらを真面目にやるとかなり面倒ですが、身の回りの輪ゴムや針金で対応することも不可能ではないでしょう。この「理屈」を頭に入れてご自分のサックスと付き合えば、きっとその良い状態を長く維持することが出来るはずです。

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Written By: sax on 5月 15, 2019 No Comment

「T.K.」こと伊東たけしは、1954年3月15日に福岡県福岡市に生まれた日本のフュージョンミュージシャンです。日本のフュージョンシーンで、サックス奏者、ウインドシンセ奏者として絶大な人気を誇っています。ちなみに「T.K.」とは名前のイニシャルではなく、英語圏では発音し難い「たけし」という音に替えるものとして、「ティーケー」と自身で名乗っています。
 フュージョンやらクロスオーバーやらジャズロックやら、最近ではスムースジャズなどとも呼ばれる伊東たけしの音楽フィールドは、とにかく格好良く、おしゃれで、刺激的で、先進的です。学生ビッグバンドの名門、日大リズム・ソサエティ・オーケストラに所属し、既に有名なリードアルトだった伊東は、当時明治大学の軽音楽部で活動していたギタリストの安藤正容(あんどうまさひろ)が結成したフュージョンバンド、「THE SQUARE」に参加、1978年にプロデビューしました。何度かの離脱もありますが、現在も名を変えた「T-SQUARE」で活動しています。
 伊東たけしと言えば「EWI(AKAI製の電子サックス)」でしょう。伊東は一時期リリコン(コンピュトーン社製サックスシンセ。世界初のウインドシンセ)もステージで使用していましたが、EWIが発売されるとすっかりこちらに傾倒したようです。開発にも深く携わり、伊東用のプロトタイプや専用改造モデルも使用しています。EWIの性能や長所を知り尽くした伊東の演奏は、多くの名演奏を残し、多くのファンの心を掴みました。F-1グランプリのテーマ曲として大ヒットした「TRUTH」での伊束のEWIプレイは、EWI奏者のバイブルであるとともに、音楽界においてウインドシンセの可能性を広く知らしめた名演奏でしょう。あまりにも多くのEWIプレーヤーが伊東たけしのサウンドセッティングを真似て演奏するので、伊東のサウンドセッティングを「EWIの音」と誤解している人も少なくないようです。シンセサイザーなので、あらゆる音が出せるんですけどね。

 伊東はEWIだけでなく、生のサックスにもマニアックです。マウスピースこそオールド・デュコフのD8を主に使っていますが、アルト本体は色々なものを吹き倒しています。「吹き倒す」とあえて使ったのは、伊東はあまりにもパワフルな吹き方をするため、新品の楽器が数年で吹きつぶれ、彼の求める抵抗感が無くなってしまうのだそうです。結果、ネックを変えたり、楽器をGP(金メッキ)のものにしたりと色々試す事になるようです。現在ではセルマーの管体総銀製(スターリングシルバー)のSERIE IIIを使用していますが、この楽器はかなり長く使っています。このモデルの発売直後に渋谷のセルマージャパンで試奏した伊東は、そのサウンドに惚れ込んでしまい、延々と試奏を続けた末に、即購入&お持ち帰りとなったそうです。このモデルはあの渡辺貞夫も使用しています。また伊東は評SAXZ(サクゼト)というブランドから自身のシグネチャーモデルのマウスピースを出したことがあります。デュコフに似たハイバッフルのメタルマウスピースで、なんとこれも総銀製(スターリングシルバー)。10年前の発売当時、価格は16万円ほどでした。凄い!

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