Written By: sax on 8月 21, 2019 No Comment

サックスは比較的取っつき易い管楽器だと言われています。しかし、そうは言っても奥深い技の世界は存在します。多くのトップサックス奏者たちは、そんな超絶テクニックをいとも自然に繰り出し、自らのサウンドに豊かな表情を加えています。今日はそんな「技」についてお話します。
 「サーキュレーション・ブリージング」という技があります。日本語では「循環呼吸」と呼ばれ、音を鳴らしながら息を吸う、という特別な呼吸法です。肺の息が残り少なくなった時点で、口腔の中にある程度の量の空気を貯め、その空気を頬の筋肉で押し出すことで楽器の音を持続させ、その隙に鼻から肺に瞬間的に空気を吸い込みます。これを繰り返すことで、 楽器の音は延々と途切れずに鳴り続ける訳です。フルートやトランペットなど他の管楽器でもこの呼吸法を演奏に使うプレーヤーはいますが、やはり楽器をそれなりの音量で鳴らし続けるのは難しく、ライブステージでの演奏のカデンツァ等で「飛び道具」として使われるケ ースが多いようです。ソプラノサックスで有名なケニー・Gが、45分47秒の超ロングトー ンでギネス記録を持っています。非公式にはローランド・カークによる2時間21分が最高記録です。現在では訓練法や教則本等も数多く出回っており、アマチュアでもマスター可能な技術になっています。
 サックスの通常運指の範囲を超えた高音域の音を、特別な運指と喉のコントロールで出すことをフラジオと言います。

 また、運指の音の2倍音、3倍音等を喉の形や息の方向のコントロールで出すことをオーバートーンと言います。「オーバートーンはサックスの音質を豊かにするための大事な練習です」、とデイブ・リーブマン巨匠は言っています。このフラジオとオーバートーンのテクニックを組み合わせてマスターすると、サックスの音域の 1オクタ ーブ以上高域の音を、自由に出すことが出来るようになります。極端な例では、サックスで指を動かさずに高域の音階を上がり下がり出来るようになるらしいです。究極の技巧派サックス奏者、故マイケル・ブレッカーは、テーマだろうがソロだろうが、どうやって出してるんだろうという音域の音を「ピューピュー」出しています。喉のコントロールが出来ないと吹けないようなフレーズを、バンバン吹いています。是非聴いてみてください。
 サックスのサウンドは「タンギング」が命と言っても良いでしょう。どんなに良い音でも、 音の出だしが不明確だったり、タイミングが外れたりしていれば、美しい「フレーズ」にはなりません。上級タンギング技術には、ハーフタンギング、スラップタンギング、ダブルタンギング、フラッタータンギング等がありますが、これらのタンギング技術をマスターするというよりも、これらの「発音特性」を必要とする音楽表現をマスターする、と考えるのが妥当でしょう。技術優先で考えると、タンギングは目的と手段が逆転しがちなので気を付けましょう。バカっ速いフレーズの練習をしていたら、知らぬ間にトリプルタンギングをしてた、なんて怪談(?)を聞いたことがあります。

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Written By: sax on 8月 7, 2019 No Comment

「テナーサックスは、人間の肉声に最も近い楽器」、と良く言われますが、ベン・ウェブスターのテナーサックスのサウンドを耳にしたら、「なるほど、なるほど」と100回くらいはうなずくでしよう。ベン・ウェブスターのテナーは、ときには囁き、ときには捻り、端ぎ、 鳴咽し、歓喜に吠え、咆哮します。
 スイング期の三大テナーとして、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤングと並び称されたベン・ウェブスターは1909年、カンザス・シティの生まれです。三大テナーに共通して言える特色は、メロディアスで流麗であることです。モダン・ジャズ期の多くのサックス奏者は、メロディアスであることを敢えて避けており、ある意味では聴きづらいジャズとも言えます。しかし彼ら旧世代のサックス奏者は、ヴォーカリストが歌うかの如く、メロディを感情たっぷりに演奏しています。単純ですが分かり易く、心地良いサウンドです。代表的なアルバム、「ソウルヴィル(SOULVILLE) 」は1957年吹き込みで、世はハード・バップ全盛期です。そんな時代に、大御所ウェブスターが放った実に直球な作品では、骨太なスウィング・サックスをたっぷりと聞くことが出来ます。当時気鋭の若手ピアニストだったオスカ ー・ピーターソンがサポートし、更にハーブ・エリスがギターで参加、ベースは巨匠レイ・ブラウンと、素晴らしいメンバーによるクインテット構成です。

 ベン・ウェブスターはプロデビュー以来、ベニー・モーテン楽団、フレッチャー・ヘンダ ーソン楽団、ベニー・カーター・バンド、デューク・エリントン楽団等、数多くの名バンドに在籍しましたが、デューク・エリントン楽団の花形ソリストとしていっきに有名になりました。三年間エリントン楽団で活躍したベンでしたが、なんと御大エリントンとケンカしてバンドをクビになってしまいました。その後は主に自己のバンドやセッションで活動し、数多くの名作を残しており、ベンにとっては「独り立ちする良い機会」だったのかもしれません。エリントン楽団では、伝説のアルト奏者、ジョニー・ホッジスとの出会いもありました。 ベンによれば、ホッジスこそが彼に、「サックスをどのように演奏したら良いか」を教えてくれた人物だということです。ビッグバンドのアルト奏者には、神のように崇められているホッジスですが、彼の流麗にして滑らかなフレーズや、包み込むように暖かなサウンドは、 確かにベン・ウェブスターに受け継がれているのかもしれません。
 ベン・ウェブスターというとオットーリンク社のメタルマウスピース、マスターリンク・フォースターを愛用していたことで有名です。この時代のマウスピースは現行のものと設計が異なり、かなりマウスピース全体が小さく、大きな音が出し難かったようです。その小さなマウスピースの中を大きくえぐったラージチェンバーによって、ベン・ウェブスターの豪快なサウンドが実現されていたようです。色々考えると、是非ベンには現行のパワー系のマウスピースを使ってもらってみたかったです。きっと、もの凄いサウンドを聞かせてくれたことでしょう。

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Written By: sax on 7月 31, 2019 No Comment

サックスを首から提げるためのネックストラップは、サックス奏者の必需品です。出先でストラップを忘れたことに気づき、「え~?」と叫んでも、ストラップ無しではどうにもサックスを吹くことは困難です。椅子に座って、サックスを何かの台に乗せて、なんとか吹く姿勢になれないこともありませんが、ま、格好悪いですね。そのストラップですが、引っ張ったり、擦ったりと色々な重労働で消耗度が高いグッズです。汚れた、千切れそう、破れそう等でストラップの新調を考えているあなた。まだまだ修理して使えますよ。
 ストラップの部品で一番酷使されているのは、やはりストラップフックでしょう。プラ製なら「割れた」「折れた」「削れた」「(ベースから)抜けた」が、メタル製なら「メッキが剥げた」「削れた」等が考えられます。これらフックの不具合は、交換することで簡単に修理できます。そもそもストラップのフック部は、デ・ジャックス製ストラップのような特殊形状のフックを除けば、ほとんどのストラップが「流用品」を使っています。カバンのショルダーベルトを引っ掛けるフックであったり、キーホルダーのフックであったりします。「キ ーホルダー」、「カバン部品」、「アクセサリー」等のキーワードで探せば、希望の形状のフックが簡単に見つかるはずです。フックを紐に取り付けるためのD環・0環(D型、0型の金具)も一緒に見つかると思います。

 ストラップの紐が擦り切れて切れそうになったら、登山用品のお店に行きましょう。「ザイル」というとかなり太めの紐になりますが、細めの「ロープ」や「登山靴用シューレース (靴紐)」はストラップに最適な丈夫さを持っています。柄もカラフルなものが多く、お酒落なストラップが作れます。紐タイプのサックスストラップの機能は、スライダーに紐をどのように通すかで性能が決まります。スライダーの穴への紐の通し方を間違えると、長さが不用意に変わってしまったり、演奏中に伸びてしまうこともあります。紐の通し方をスマホで写真に撮っておき、元の通りに新しい紐を通せるようにしておきましょう。ナイロンベルト式のストラップなら、「カバン用の部品」がそのまま使えます。その場合、スライダーになる部分の性能を、サックスストラップ用にしっかりと吟味してください。サックスストラップのスライダーの場合、「ゆるんだ状態では軽く動かせて、引っ張った状態ではまったく動かない」が重要です。
 ネックベルト部分も結構早く劣化します。「汗を吸って臭くなった」、「紐が留めてある先端が千切れそう」、「革がボロボロになって表面が剥がれてくる」等の劣化が定番です。ストラップの紐を結び付ける部分の強度を保つための「ハトメ」が打てれば、どんな「ベルト」 でも使用できます。レザークラフトのお店で、良いものが見つかるかもしれません。流用性が高いものでは、カメラのストラップがお勧めです。一眼レフ用のカメラストラップは、サックスストラップとして流用しても、結構首周りを快適にしてくれます。

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Written By: sax on 7月 24, 2019 No Comment

ある年代のジャズテナーサックス奏者は、目指すサックス奏者にこの人の名をあげないと、奇人呼ばわりされることがありました。ジャズテナーの聖人、ジョン・コルトレーンはそれほど「神格化」されていました。1955年、マイルス・ディヴィスのグループに加入し、世に名前を知られるようになってから、1967年に肝臓がんで亡くなるまで、まさにジャズ界を駆け抜けていったコルトレーンに関しては、短い期間だったにもかかわらず、多くの名録音とともに、多くの資料や逸話も残っています。「聖者」、ジョン・コルトレーンを振り返ってみましょう。
 多くの資料で、「聖者ジョン・コルトレーン」 という呼び方が好んで使われています。これは1966年の来日ツアーの際のインタビューで、「10年後、あるいは20年後に人間としてどう在りたいか?」という難解な質間に対し、「私は聖者になりたい」と答えたというエピソードから、このような呼称が定着してしまったようです。この短い引用を聞くと、イメージ通りにコルトレーンが、きっぱりと真顔で口にしたように感じます。が、現実はそうでもなかったようです。インタビューの録音では、この答えの後、コルトレーンはくすくす笑い、続いてコルトレーンの左隣にいた妻のアリスも笑いました。コルトレーンの真意を測りかねた通訳は「聖者になりたいですって?」と聞き返しましたが、これに対してコルトレーンとアリスからさらなる笑いが起こり、コルトレーンは「その通り」と答えた、とのことです。つまり、「私は聖者になりたい」は、ほとんど冗談だったと推測されます。しかし後の1957年春に、長年の中毒からヘロインを断った際、彼は「音楽によって人々を幸福にする」という願望を神に願い、誓ったそうです。「聖者」のような崇高な存在を目指していたのではなく、「聖者のように」人々を幸せに導ける音楽家になりたかったのは冗談ではなかったようです。

 10年という短い間に、コルトレーンは多くの変化を遂げました。常にフォルテッシモで速いパッセージばかり吹き続ける、「シーツ・オブ・サウンド」の時代。コルトレーン最大のヒット曲となった「マイ・フェイヴァリット・シングス」でのソプラノ・サックスは、コルトレーンの定型パターンとなりました。アルバム「至上の愛」では、コルトレーンのモー ド・ジャズは極限にまで達し、調性にとらわれず、あらゆるスケールを縦横無尽に使うスタイルを実現しています。そしてアルバム「アセンション」では完全にフリー・ジャズの演奏スタイルとなりました。そんな大きな変化の中で、コルトレーンは常に楽器に対しても、音楽に対しても「生真面目」を貫き通しました。人一倍練習をし、楽器を研究し、音楽理論を突き詰める、という一連の姿勢は他のミュージシャンを圧倒していました。マウスピースをいじり過ぎて、ダメにしてしまったことも頻繁だったようです。名盤「バラード」は、手持ちのマウスピースを皆ダメにしてしまい、反応の悪いマウスピースでバラードしか吹けなかった、という逸話も残っています。本当なのでしょうか?

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Written By: sax on 7月 17, 2019 No Comment

サックスは「擦れ(こすれ)」ます。使い古されたサックスは、あっちこっちが擦れて「禿げて」います。悲しい楽器です。
 親戚筋にあたるクラリネットも、擦れるキー構造を持っています。サックスでは指の先端が触るキーの部分に、貝殻、もしくはプラスチックの「指貝(ゆびかい)」という丸い素材が埋められていますが、クラリネットではこれがありません。指の腹でトーンホールを塞ぐキーが多いのがその理由ですが、パームキーに当たる指の腹や手のひらで押さえるキーは、 サックス同様むき出しの金属です。なのに、「はげはげ」のクラリネットはあまり見かけません。どうしてでしょうか。クラリネットのキーには、ほとんどの場合銀メッキがかけられているので、ラッカー塗装が多いサックスよりは、「擦れ」に強い事は事実です。しかしそれ以上の「禿げの差」の理由があります。クラリネットはキーが小さく、ストロークも少ないのです。これによってクラリネットのキーは、サックスに比べて触る手の圧力も小さければ、擦る力も、擦る範囲も小さいのです。クラリネットのキー操作は、「ちょっと触るだけ」 なのです。それに比べてサックスのパームキーは力強く押しますし、擦ります。フレーズによっては、パームキーを一所懸命擦り上げている場合も少なくありません。だから「禿げる」 のです。これを防ぐためには、パームキーの擦れ易い部分に、クリアのマニキュアを塗るサックス奏者もいるようです。もちろん「禿げる前」です。自分の運指をひとつずつ確かめてください。左手の「レ」のパームキーとか、力いっぱい擦っていませんか?そうなんですよ、 サックスのキーって普通の運指で、とっても擦れる構造なんです。禿げないように上品に操作しようとしても… 無駄だと思います。

 サックスには擦れて禿げるところがまだあります。それは二番管(本体)の左側です。この場所はサックスの構造上キーの空白地帯になっており、多分設計者のアドルフサックスも、 このあたりを「奏者とサックスの接触場所」として設定していると思われます。奏者の体に接触しないソプラノ以外は、多くの奏者がサックスの二番管左側を体の右側に接触させて演奏します(アルトは体の中心で吹く奏者も多いですね)。主に座奏が定型のビッグバンドのテナー奏者が、一番この場所をいじめていると思います。演奏中、太ももの右側が常に二番管左側を擦っていますよね。演奏時にデニム・ジーンズばかりをはいているテナー奏者で、 自分のサックスの左側が真っ青になってしまっている人を見たことがあります。それだけここは「擦れる」んですね。ここの擦れによる「禿げ」を防ぐ方法は… なるべくスベスべのズボンをはくことぐらいでしょうか。かといって、このあたりにクリアラッカーを厚塗りしたりすると、サウンドが変わってしまうので止めたほうが良いと思います。サックスのラッカーの禿げの補修が得意なリペアさんもいらっしゃるので、気になる方は相談してみてください。

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Written By: sax on 7月 10, 2019 No Comment

ご存じ「世界のナベサダ」は1933年栃木県生まれの86歳、偉大なアルトサックスおよびフルート奏者です。歳を感じさせない熱い演奏で、ジャズファンのみでなく、多くの音楽ファンを魅了しています。栃木県立宇都宮工業高等学校を卒業後、1951年に上京。銀座のクラブ等で演奏活動を始め、1953年には穐吉敏子率いるコージー・カルテットに加入しました。 1958年にはジョージ川口ビッグ4に参加し、1961年、28歳にして初リーダーアルバム『渡辺貞夫』を発表しています。渡辺貞夫の歴史そのものが、日本のジャズの歴史と同期していますので、彼の音楽遍歴は多くの資料で取り上げられています。ボサノヴァとナベサダ、アフリカとナベサダ、クロスオーバー(フュージョン)とナベサダ、等の資料については、数多くの記事がネット上に溢れています。ですので、ここでは少し斜めから見た「ナベサダの偉業」にスポットを当ててみたいと思います。
 ジャズプレーヤーの立場から渡辺貞夫を語るとき、彼が日本で広めた「バークリー・メソッド」を取り上げないわけにはいきません。ボストンのバークリー音楽院で教えている音楽理論がいわゆる「バークリー・メソッド」なのですが、バークリー音楽院では音楽を記号化・理論化し、整理することに成功しました。今、世に知られているポピュラー音楽のコードの理論やコード進行の約東事等は、すべてこのバークリー・メソッドによって解説されていると言って良いでしょう。1962年から3年間バークリー音楽院に留学した渡辺貞夫は、1970 年に「Jazz Study」を出版し、そこにバークリー・メソッドのすべてを記しました。当時のバークリー・メソッドの特徴として、権利等に関し寛容かつ無頓着であり、卒業生たちが自国に帰って自由に教えることを許容していました。ナベサダは私塾を開いたりして、多くの後進に「理論的なジャズの分析法」を教え、それまで「雰囲気」に左右されていた日本のジャズを、一気に理論的に進化させたのです。バークリー・メソッドはブルースの研究から始まり、「ブルースのサウンドの格好良さを、理論的に説明する」ことを突き詰めたとも言われています。ナベサダ以降、我々は「カッコ良い演奏をする理論」を手に入れたのです。
 渡辺貞夫は優れたフルート奏者でもあります。フルートは、日本フィルハーモニー交響楽団の首席奏者だった林リリ子さんに師事しています。バークリー入学前の7年間、彼女の元でみっちりとクラシックフルートを学んだそうです。そのレッスンをひとつのきっかけとして、「それまでジャズ以外の音楽に耳をふさいでいた自分が、少しずついろんな音楽へと心が開を開いていった」、と自らを振り返っています。渡辺貞夫というミュージシャンがジャズプレーヤーに留まらず、あらゆる音楽ジャンルをも取り入れる、どん欲な音楽表現者として今も活躍しているのは、こんな経験が基になっているのかもしれません。

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Written By: sax on 7月 3, 2019 No Comment

梅雨の時期から夏場にかけて、日本の多くの地域はもの凄い「湿気」に覆われます。ジメジメ、ムシムシと人間にもキツイ季節ですが、楽器達にも過酷な季節です。サックスも例外ではありません。
 サックスは管体が金属で出来ているので、木管楽器の中では湿気には強いほうです。クラリネットやオーボエは、過剰な乾燥と湿気の繰り返しを被ると、管体自身が割れてしまう場合があります。恐ろしいですね。サックスの湿気対策の注意の対象は、金属面への結露、そしてパッドとコルクです。暖かい空気は水分を沢山蓄えることが出来ますが、冷えると水分の保有能力が落ちます。これを飽和水蒸気量と言い、温度が高いほど沢山水蒸気を抱えることが出来ます。そして温度が下がると飽和した水分を外に出し、それが水滴となって液体化します。それが結露です。サックスの基本的な結露は、奏者の体内から出た温かく湿った息がサックス管体の金属によって冷やされ、管体内部に付着する水分です。サックスをしばらく吹き続ければ、ベルの底には流れ出るほどの水が溜まります。演奏だけでなく、暑い野外からエアコンで冷えた室内に楽器を運んだだけでも結露は生じます。そして管体内の水分は、ホコリを取り込んで固まり、パッドとトーンホールの間に隙間を作ったり、金属面を錆びさせる原因となります。演奏後は必ずクリーニングスワブを管体内に通し、水滴をぬぐっておくという手間が重要です。

 サックスの重要な部品、パッドとコルクにも湿気対策は必要ですが、実を言うと重要なのは、湿気対策というより「乾燥対策」です。パッドもコルクもある程度水分を帯びているほうが好ましい状態です。適度に水分を含むことでしなやかさと弾力を保ち、息漏れを防いだり、キー操作のショックを和らげたりの役割を果たすことが出来ます。しかしパッドもコルクも、乾燥するとカチカチになってしまいます。そうなるとそれぞれの役割に支障が出てきます。一番避けたいケースが、ビシャビシャに濡れた状態からカラカラに乾燥し、またビシャビシャに湿るという繰り返しです。この最悪の繰り返しによって、ご想像通りパッドもコルクも曲がり、歪み、場合によっては「外れ」ます。こうなったら、もう入院です。
 梅雨から夏の時期にかけては、サックスを湿気の多い状態に放置することは避けてください。ただし過剰な乾燥や高温も良くありません。サックスケースに乾燥剤を入れる方がよくいますが、程度問題です。ケース内の余分な水分を吸収し、カビや雑菌の繁殖を防ぎ、嫌な臭いを防ぐ程度が適当です。乾燥しすぎないよう注意してください。サックスを車の車内やトランクに長期間放置するのも良くありません。この時期には、サックスのケースの蓋を開けた状態で部屋で保管する、というサックス奏者も少なくありません。

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Written By: sax on 6月 26, 2019 No Comment

松本英彦は「日本のジャズ」を作ったミュージシャン達のひとりで、日本のジャズの歴史に残る偉大なテナーマンです。1926年岡山県に生まれ、18歳でプロ活動を開始、いわゆる「米軍キャンプ」のバンドを経て、日本のジャズブームの中心となる「ビッグフォー(ジョージ川口(ds)、中村八大(pf)、小野満(b)、松本英彦(ts)」で活躍することとなります。日本ジャズ界への多大な貢献を評価され、1991年には紫綬褒章を受章しています。肺ガンの手術後の医療ミスが元で全身麻痺となり、3年近い闘病生活の末、2000年に73歳で亡くなりました。
 ニックネームは「スリーピー松本」。細い目が演奏中に眠っているように見えるからとか、コンサート中にピアノの横で居眠りをしていたから、とも言われているこのニックネームは、常に温厚な微笑みを絶やさない、大きな包容力を感じさせずにはいられない松本にとって、最適のニックネームだったことでしょう。第二次世界大戦終了後、それまで禁止されていた欧米の音楽が怒涛の如く日本に流入し、それに刺激を受けた多くの若い演奏家たちが「バンドマン」となりました。米軍キャンプのパブやダンスホールで演奏し、本物のジャズを勉強しながら、自己の技量を向上させて行きました。その背景には、敗戦日本政府が米進駐軍の要請に応えるかたちで始めた、演奏家の派遣業務があります。国内の演奏家を集め、米軍キャンプや基地、ホテルに設けられた米軍高級将校や軍属の宿舎に派遣し、演奏させる業務です。プレイヤーの絶対的不足により、日本人プレイヤーたちはそれなりに歓迎され、多くの演奏場所がありました。それゆえに極端に言えば、楽器をもってさえいれば、何かしらのバンド仕事にありつける状況だったようです。そんな玉石混合の状況の中から、スリーピーたちのような「本物」が巣立ち、日本のジャズを作り上げていったのです。

 松本英彦のサウンドは、あくまで太く、温かく、スムースな正統派のテナーサウンドです。奏法も、「呼吸するように」自然で無理のないものになっています。息の吹き込み、ブレス(息継ぎ)、タンギングを、まるでサックスが自分の声であるかのように歌っています。これほどスムースなテナーの演奏は、世界的に見てもそれほど多くはないでしょう。彼は多くの後進にサックスのレッスンをおこないましたが、指導を受けた多くのサックスプレーヤーが、彼の論理的で無駄のない奏法や、練習法の合理性に驚嘆したと述べています。スリーピーは1979年に購入した、HセルマーのマークVII GP(ゴールドプレート)をずっと愛用していました。後期のマークVIIで、かなりSA80系の技術も採用されていそうです。マウスピースは主にベルグラーセンのメタルで、典型的な「豪快テナー系」です。

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Written By: sax on 6月 19, 2019 No Comment

サックスのサウンドの源は、言うまでもなく先端のマウスピースに装着されたリードの「振動」です。奏者の息のエネルギーで発生したリードの振動が、マウスピース、ネック、サックス本体へと伝わり、最終的にサックスのサウンドに変化して聴衆へと届きます。ですので、サックスのサウンドを考えるときには、「振動」を考えることが不可欠です。
 「音のエネルギーをロス無く楽器に伝える」、はサックスにとっての永遠の課題です。古くはアメリカンセルマー製マークVIで採用された、「U字管をはんだ付けする」という手法がありました。接着剤やネジによる締め込みが一般的なU字管の接続を、金属はんだでロウ付けし、振動の伝達率を上げ、かつ息漏れを最小限にしようというアプローチです。これによって、「さすがアメセルは反応が違う!」と言わしめたようですが、今の製造技術で考察すると、必ずしも効果があるかどうかは分からないようです。このU字管のように、サックスには沢山の「つなぎ目」があります。そしてそこの接続を密にすれば、きっと良い音がする、というのが「振動伝達」のコンセプトです。

 サックスのつなぎ目には、リードとマウスピースをつなぐリガチャー、ネックコルクを介したネックとマウスピースの接続、ソケット構造によるネックと本体の接続、そしてU字管があります。「振動伝達」を考えると、サムレストやサムフック、ストラップリングのような、「ここから振動が逃げる」、という場所もありますが、今日は置いておきましょう。リガチャーの種類や構造に関しては膨大なバリエーションがあり、単なる振動伝達に留まらず、振動の成分を調整する発想のリガチャーも少なくありません。ネックコルクの振動伝達改善には、最近多くのアクセサリーが発明されています。「小判型」の金属板をマウスピースとネックの金属部に渡して、マウスピースの振動を積極的にネック側に伝えるアクセサリーが人気のようです。またリガチャーから伸びた金属棒をネックに触れさせ、リードの振動をネックに直接伝えようとするアクセサリーもあります。炭素系の超微粒子を特殊処理でオイルに溶かし込んで作られた、金属接合部の振動伝達性を向上させるオイル、というものもあります。ネックジョイントだけでなく、リガチャーや本体のネジ部に注しても効果があるようです。U字管のはんだ付けも、接合に使うロウ材(溶かす金属)の成分を変えることで、音の伝達効率や、伝達する音の成分をコントロールする技もあるようです。同様に、ネックコルクをネックに巻き付ける際の接着剤も、ゴム系の接着剤を避け、常温で硬化するシェラック(パッドをカップに接着するもの)を好んで使うサックスプレーヤーも多いようです。「振動」の事を考え始めると、ほんと、「しんどお」いです。あは。

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Written By: sax on 6月 12, 2019 No Comment

2007年の年が明けて間もない1月13日、多くのジャズファンを呆然とさせた彼の突然の死。偉大なジャズテナー奏者でありEWI(エレクトロニック・ウィンド・インストルメント)奏者のマイケル・ブレッカーが、骨髄異形成症候群から進行した白血病のため亡くなりました。死のまさに直前まで、マイケルは最前線で時代の音楽シーンをけん引していました。生まれ持った才能と弛まない努力によって、彼は最高の技術とセンスで、素晴らしい音楽世界をファンに届けてくれました。
 ブレッカー・ブラザーズやステップス・アヘッドといつた、兄、ランディ(Tp)と共同リーダーを務めたバンドでの活動に加え、自己のリーダーバンド、スタジオ・ミュージシャンやツアーバンド・メンバー、フィーチャード・ソロイストとしての活動も幅広く、関わった録音も多様なジャンルに渡り、その数は1,000を上回ると言われています。マイケル・ブレカーを「20世紀を代表するテナーサックス奏者」と言っても、誰も異論は唱えないでしょう。57歳で亡くなる直前まで新作のレコーディングを進めており、そのアルバム「PILGRIMAGE」が遺作となりました。病室にEWI等の機材を持ち込んで、レコーディングを続けていたそうです。彼の正確無比なサックステクニックは、比べられる奏者もいないほどの至高のテクニックであり、一部のファンには「機械的過ぎて冷たいサウンド」とも言われましたが、没後発表された『UMO JAZZ ORCHESTRA WITH MICHAEL BRECKER LIVE IN HELSINKI 1995』では、キャリアの集大成を迎える絶頂期のマイケルのサウンドが熱くうねりを上げており、兄、ランディ・ブレッカーも、「マイケルの最高のプレイのひとつだ!」、とそのクォリティの高さに驚愕したと言われています。

 ファンクやフュージョンジャズと呼ばれるジャンルで主に活躍したマイケルは、いわゆる「電子化サックス」の先駆者でもありました。バーカスベリー社のリード貼り付け型ピックアップ、モデル1375を1970年代のブレッカー・ブラザーズで使用しており、また1980年代にはネックに穴をあけて装着するピエゾタイプのピックアップをラックタイプのシンセサイザーに接続して演奏しています。「Steps Ahead」の1986年の厚生年金会館でのライブでは、EWIの前身である「スタイナーホーン」を吹いており、サンプラーや複数音源を駆使した一人オーケストラ的演奏は必聴です。1988年には本格的にAKAIのEW11000を使用し始めています。当時ヤマハのメカキータイプのサックスシンセサイザーWX7も発売されていましたが、マイケルは静電タッチキータイプの AKAI製を終始使用していました。スピーディーな運指を突き詰めるには、触れるだけで感知される静電タイプが向いているとのコメントも残しています。
 マイケル・ブレッカーのことを書き始めると、まったく紙面が足りません。とにかくマイケル、凄いっす!

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