サックス 本体

セルマー物語

サックス奏者でその名を知らないひとはいない、老舗楽器メーカー、「セルマー(正式名称はHenri Selmer Paris: アンリ・セルマー・パリス)」。サックス奏者の中には、サックスを発明したアドルフ・サックスがセルマーの創始者と思い込んでいる人もいるくらい、サックス奏者には馴染みの深い名前です。意外と知られていない、「セルマー物語」を辿ってみましょう。

1858年生まれのフランスのクラリネット奏者、アンリ・セルマーは、1885年、クラリネットのマウスピースやリードの製作・販売をする店をパリに開きました。これがセルマー社の始まりです。ちなみにアドルフ・サックスは1873年に自身の楽器製造会社を破産させ、1894年に79歳で没しており、二人に接点はあまりなかったようです。1898年からは職人の支援を受け、セルマーはクラリネットの製作を始め、モンマルトル地区に工房を構えました。1904年に米国で開催されたセントルイス万国博覧会にて、当時フィラデルフィア管弦楽団のクラリネット奏者であったアンリの弟、アレクサンドル・セルマーが、兄アンリの製作したクラリネットを紹介し、大会の金メダルを獲得します。この評判によって2年後、アレクサンドルはニューヨークに店を開き、そこでセルマーのクラリネットの販売を始めます。この店はセルマー子会社のSELMER USAとなりました。その後もセルマー社は発展を続け、B♭ベーム式クラリネットから、13鍵のミュラー式クラリネット、さらにアルバート式クラリネットまで、幅広い種類を製造し、アルトクラリネットやバスクラリネットも展開しました。そしてついに1922年、セルマー社は同社初のサックス、モデル22の製造を開始します。サックスの製造開始は、クランポンが1866年(アドルフ・サックスの基本特許が失効した年)、イタリアのランポーネが1875年ですので、決して早い訳ではありません。当時サックスはまだ楽器としての普及度はあまり高くなく、米国のCONNやビュッシャーが製造を開始した1980年頃に、人気が拡大したと言われています。

1929年、セルマーはパリ18区に工場を置く、アドルフ・サックスが設立した工房、アドルフサックス & Cie社(Adolphe SAX & Cie、Cieとはフランス語の「企業」の意)を買収しました。セルマー社はアドルフSAX & Cie社のスタッフと手腕を事業に取り入れ、アドルフ・サックスの後継者と言われるほどになりました。この買収により、セルマーは金管楽器の製造も可能になります。1931年から1934年に販売された「シガーカッター」、1934年から1935年の「ラジオ・インプルーブド」、そして1936年には現代サックスの基礎となる「バランスド・アクション」を発売し、サックスの世界に革命をもたらしました。これらのサックスの躍進に加え、1932年に開始したギター製造が、ジャズギターの始祖、ジャンゴ・ラインハルトに絶賛されたり、1933年にはトランペットの巨匠ルイ・アームストロングのシグネチャーモデルのトランペットを発売するなど、セルマー社の業績は拡大していきます。そして1954年、伝説の名器、マークVIが発売されます。マークVIの生産は、約20年の長きに渡りおこなわれました。マークVIの優れたキーレイアウトは、非常に快適な操作性を実現し、多くのサックス奏者に愛用されました。ジャズの世界では、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツ、デクスター・ゴードン、ジョン・コルトレーン等によって、歴史に残る演奏にこのマークVIが使われています。マークVI以降は、皆さんが良くご存じのセルマーブランドでしょう。まさに管楽器のブランドの頂点に、 さんぜんと輝く名前が、セルマーなのではないでしょうか。

 

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