サックス お手入れ

サックスの健康寿命

長寿化が進む近年、「ただ長く生きる」だけでなく、「心身ともに充実し、自分らしく健康に生きている期間」、「健康寿命」が注目されています。生活の質(Quality of Life)に注目した、生きるということへの考え方です。サックスの健康寿命について考えてみましょう。

サックスの健康が、「音楽の演奏に使える」ということでしたら、サックスの発明者、アドルフ・サックスが1840年代初頭に製作したサックスを使用して、コンサートで演奏しているプロサックス奏者が何人もいますので、「製造から180年経っても健康なサックスはある」、と言って良いのでしょう。ご存じのようにサックス等の楽器には、性能維持のためのメンテナンスが不可欠です。シャフトのがたつき、パッドの破損や歪み、管体の凹みやねじれ、消耗品の交換等、正しくメンテナンスしていれば、サックスの機能、つまり健康度はある程度維持することが出来ます。昔、あるベテランのリペアマンが、「車に轢かれたサックスを治したことがあるよ。ちゃんとしたサックスは、治せるように出来てるよ」、と言っていました。消耗品は交換できますし、部品は手作りできます。管体も正しく治具を使えば、ほとんど元の形に戻すことが出来ます。サックスは健康寿命の長い、かなり頑丈な道具なのかもしれません。

とはいえ、健康に対する考え方は人それぞれです。人間でも、「走ると息切れがする」、「脂っこいものが食べられない」、などと、年齢に伴う身体の変化を嘆くひともいれば、「歳を取って気持ちが穏やかになった」、「広い視点で物が見える」など、豊かな人生経験の効果を喜ぶ人もいます。サックスも同じです。新品のサックスは、メンテナンスを欠かさなくとも、10年経てばどこかしらが変わります。操作感も、吹奏感も、サウンドも、買ったばかりの10年前の状態とは変化しているのが当たり前です。そしてこれを、「劣化」ととらえて買い替えを検討するか、「味が出てきた」と歓迎するかは、持ち主の考え方次第です。このどちらも正しい考えで、クラッシックのサックス奏者のなかには、ある程度の年数を吹き込んだサックスは、音が濁ると敬遠するひと達もいます。ジャズサックスの世界では、サックスの経年変化の「味」を求めて、ひたすらヴィンテージサックスのサウンドを愛するプレーヤーも少なくありません。

意外と丈夫なサックスですが、材料が金属であるが故の、致命的な「難病」も存在します。それは材料の「金属」の劣化です。サックスの材料である真鍮等の合金は、1,000度以上の温度で溶解・攪拌され、その後板金や棒材に加工されます。そしてパイプへの巻き込み、穴開け、成形等の過程を経てサックスの部品となりますが、この工程の中で金属組成の不具合が起きると、「置き割れ」や「クラック」という金属破壊が起こります。穴を開けた後に引き上げる、トーンホールの壁面の立ち上がり部は、加工時に大きな力がかかるため、パックリと割れる「置き割れ」が生じることがあります。また経年変化でクラック(ひび割れ)が起こる場合もあります。「置き割れ」と「クラック」が生じると、サックスから空気も漏れますし、まったく管体が振動しなくなります。これらはある意味製造不良で、めったに出会うものではありませんが、いくつかのメーカーの、特定の期間の製造品に表れることが多いというひともいます。金属破壊が起こったサックスは、ほとんどの場合再起不能です。ロウ付けやシーリング材等を使っても、金属が全く響かなくなり、プラスチックの管のような音になります。皆さんのサックスが、より長く健康でいられることをお祈りします。

 

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