サックス 本体

取り残されたソプラノVI(シックス)

1954年に発売が始まったセルマーのサックス、Mark VI(マークシックス)は、サックス界の革命児とも言われ、その基本メカニズムは未だに現在のサックスに大きな影響を与えています。現代のサックスの基本構造は、このMark VIで完成されたと言っても過言ではないでしょう。しかしそのMark VIのサックスの中、ソプラノサックスだけはその進化に取り残されました。サックス界のシーラカンスとも呼ばれる、ソプラノMark VIについて迫ってみましょう。

Mark VIが改革したサックスのメカニズムは沢山あります。そのテーブルキーのメカニズムはシーソー式の連動機能が採用され、このテーブルキーの構造は現在のほとんどのサックスで、ほぼそのまま採用されています。また左手パームキーの配置、左右の手のキー配置は、トーンホールの位置を適切にオフセット(先端からの距離を変えずに、左右にずらすこと)することで、最適な操作性が実現されています。サックスはそれまで、直線上に並んだトーンホール、インライントーンホールの構造がほとんどでしたが、このオフセットトーンホールは前モデルのSBA(スーパーバランスドアクション)から採用され、Mark VIで完成の域に達したと言われています。もちろんこの構造も、現在のサックスの主流となっています。しかしその「Mark VIによる革新」に、ソプラノMark VIだけは乗らずに、もしくは乗れずに、まるで古代魚シーラカンスのように進化せずにいたのです。

ソプラノMark VIのトーンホールは、インライントーンホールのままです。ネック一体型の管体に開けられたトーンホールは、ほぼ一直線に並んでいます。そのため左手小指のテーブルキーは、シーソー機構どころか、小指を管体側に「押す」構造で、今のほとんどのサックスのように、「外側に引く」ようにはなっていません。左手パームキーも、現在のサックスのように、左手を開いたまま包み込めるようなレイアウトにはなっておらず、かなり左手の指の付け根を押し込まないと、パームキーを操作することが出来ません。オフセットトーンホールのサックスは、左右の手の位置が、自然に左右に開いて持てるようにキー配置されていますが、インラインのソプラノMark VIは、リコーダーの構えのように、直線に並んだキーを左右から押さえなければなりません。1980年代のSA-80の登場まで、このソプラノMark VIはほぼそのままの設計で製造が続けられていました。

ソプラノMark VIが進化に遅れたのは、サイズの小さいソプラノゆえの設計・加工の難しさや、市場での販売台数の少なさなどが理由に挙げられますが、ソプラノMark VI独自の音質や、操作性や取り回しが、技術革新を受け入れる必要がないほど完熟していた、というひとも少なくありません。実際ソプラノMark VIの音色は、優しくまろやかで吹奏感も軽く、太くしっかりした高音域も特徴です。楽器自身も軽いのでストラップは不要です(そもそもストラップリングは付いていません)。SA-80以降のソプラノや他のソプラノと比較すると、明らかにサウンドが違います。ソプラノサックスで有名なケニーGのように、今でもソプラノMark VIを愛用しているサックス奏者は数多く存在します。ケニーGはその「ソプラノVI愛」ゆえに、全米ナンバーワンのサックスリペアマン、ルーベン・アレンとともに、自己所有のソプラノMark VIを再現するモデルを設計し、自らの名前、「ケニーGモデル」として販売しています。現行品で入手できるインライントーンホールのソプラノサックスは、この機種のみと思われます。サックスのシーラカンス、ソプラノMark VIのサウンドは本当に素晴らしく、いまだに多くのサックス奏者に愛されています。

 

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