ジャズのバリトンサックスといえばジェリー・マリガン。誰でもが即答する、ジャズの歴史に残るバリトンサックスプレーヤーです。
しかし、あまりに短期間でその人生を終えてしまったがゆえに、マリガンのように名前を残せなかった天才バリトンプレーヤーがいます。その名はサージ・チャロフ。
1923年11月24日、アメリカのボストンで、ピアノ教師の母マーガレットと、ピアニスト兼作曲家の父ジュリアスの間に生まれました。マリガンの4歳年上で、同時期にジャズシーンで活躍したチャロフは33歳にしてガンで他界してしまいましたが、もっと長生きしていれば、ジャズバリトンサックスの代名詞は、サージ・チャロフだったかもしれない、とも言われています。

サージ・チャロフは12歳のとき、デューク・エリントン楽団のバリトン奏者であるハリー・カー ネイの演奏を聞き、バリトンサックスを自分の楽器とすることを決めました。14歳のときには、ボストンのライブハウス、イズィ・オーツ・バー＆グリルで演奏を始め、16歳でトミー・レイノルズ楽団に参加しテナーサックスを担当しています。
若くしてプロのジャズミュージシャンとして活躍を始めたチャロフは、やがてチャーリー・パーカーの音楽に傾倒することとなります。しかしチャロフはパーカーを模倣するのではなく、パーカーの演奏のエモーショナルな基盤を把握し、それを彼自身のスタイルとして演奏しました。チャロフはパーカー並みの超速ビバップフレーズをバリトンサックスで軽やかに演奏し、「唯一のバリトンサックス・バッパー」と呼ばれました。
1947年にウディ・ハーマン楽団の「セカンド・ハード」に参加し、スタン・ゲッツ(ts)、ズート・シムス(ts)、ハービー・スチュアート(as)とともに「フォーブラザーズ」と呼ばれ、伝説のサックスセクションとなります。このメンバーでの数々の名演奏で、チャロフは一躍世界的に有名になりました。

しかしハーマン楽団で活躍する頃には、チャロフは重度のヘロイン中毒になっていました。
1949 年から1953年まで、毎年ダウンビート誌とメトロノーム誌の人気投票で1位を持続するほどの活躍でしたが、それと同時に麻薬中毒は進み、とうとう一年間の演奏不能状態となります。約4ケ月の入院で1955年初頭には麻薬からは解放されましたが、1956年5月、背中の激痛と足の麻庫が襲い、末期の脊椎のガンであることが明らかになりました。
1957年7月16日、33歳で亡くなるまで、車椅子に頼りながらも演奏を続けました。生涯7枚と多くないアルバムリリース数ですが、『Boston Blow-Up!(1955)』や『Blue Serge(1956)』はジャズの歴史に残る名アルバムとして高く評価されており、バリトンサックスとは思えない、チャロフの軽やかでスピードのあるフレーズや、深く豊かなサブトーンを堪能することが出来ます。
大きくて長い管体のバリトンサックスを、超絶的なテクニックでアルトサックスの如くに操ったチャロフですが、彼のセッティングは、セルマーのSuper Action (Mark VIの前のモデル）のLow Bbモデルに、マウスピースはオットーリンク・メタルの Tone Masterがメインだったようです。

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