ヤマハが金属製管楽器の上位機種の製造過程で採用している、「音響焼鈍(おんきょうしょうどん)」。また近年、管楽器の調整において、その効果が注目を集めている「管楽器調律」。いずれも楽器の素材の金属に対しておこなわれる音響的な熱処理のことを指している言葉です。管楽器の世界では、かなり昔から注目されている技術ではありますが、そのあまりの奥深さに、「魔法?」、「神業?」などとも言われている材料化学的アプローチです。音響熱処理の深い世界に踏み込んでみましょう。
音響熱処理とは、金属(主に真鍮や炭素鋼などの楽器パーツ)を低温で一定時間加熱したり、特定の熱処理を施したりすることで、金属内部の歪み(ストレス)を取り除き、振動効率を高める加工技術のことです。楽器製造時のプレスや切削、長年の使用等で金属内部に生じた歪みや偏りを、焼きなまし(アニール処理)に近い原理で均一化します。本来のアニール処理とは、機械加工や溶接、成形時に生じた金属内部の歪みを和らげ、成形不具合、変形、クラック(割れ)等を防ぎ、品質の安定性向上と寸法精度を高めるためのものですが、楽器関係ではそれをより積極的におこない、楽器の音響的性能を高める金属材料の実現に使用しています。
ヤマハ独自の加工法である「音響焼鈍」(ヤマハの登録商標ではありません)が最初に施されたのが、皆さんご存じのサックス、62シリーズです。ベストな音を生み出す焼鈍温度と時間の設定を確立するために、5年もの歳月がかかったそうです。ヤマハの音響焼鈍は、上位モデルの管楽器の製造工程でおこなわれる、管体金属の内部応力を取り除き、響きのバランスやレスポンスを向上させる独自の熱処理技術です。管体全体の共鳴バランスが整い、深く温かみのある音や豊かな響きを生み出します。またクラリネットやサックスなどで、キーのメッキや塗装で生じる吹奏時の抵抗感を和らげ、吹きやすさと音の広がりを両立させます。楽器全体として、レスポンスの改善: 音の立ち上がりやキレが良くなり、素早いパッセージや微細なニュアンスも伝え易くなります。
「管楽器調律」とは、バーナーなどで金属製管楽器にピンポイントで瞬間的な熱を加え、職人が音を聴きながら個体差や倍音バランスを微調整する技術です。バーナーの炎や特殊な応力調整によって楽器の倍音バランスを整えるため、「管楽器調律」ができる工房は非常に限られおり、日本国内でも限られた専門の調律師や特定の研究所・工房しか実施できません。関西では、世界初の管楽器調律師である和田守弘氏らによって立ち上げられた「管楽器調律研究所」、また関東では東京江東区にある「管楽器調律TOKYO」等が管楽器調律を受け付けている代表的な専門店です。いずれの工房もプロ奏者からの信頼も厚く、その場で奏者立会いのもと、丁寧に調整し、楽器の性能が変化していく様が、多くの動画で紹介されています。
名古屋の楽器工房、GAT Custom Brassでは、独自開発の金属熱処理、GAT音響処理を金管楽器のマウスピースやサックスのネックスクリュー、リガチャーに施すサービスと、独自のアクセサリーの販売をおこなっています。ネックスクリュー、「Saxonorité(サクソノリテ)」は、プロのサックス奏者や愛好家の間で「ストレスのない吹奏感と音の芯が強くなる」と高い評価を受けています。またHKファクトリーのSilver950 リガチャープレートは、銀合金にハンマリングと特殊な熱処理を施し、リードの振動を増幅する効果を得ているそうです。
サックスやそのアクセサリーはほとんど金属で出来ています。その金属の材料特性を楽器向けに仕上げる音響熱処理。目が離せない技術です。
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