サックスは、管楽器の中でもかなりメカニズムが複雑な楽器です。サックスの輝く金属の管体にまとわりついた、きらきら輝くシャフト、キー、カップのメカニカルで複雑な構造は、サックスファンを虜にする魅力のひとつです。サックスのメカニズムの変遷について、探ってみましょう。
サックスのメカニズムの進歩を語るうえで欠かせないのは、シングルオクターブキーの発明でしょう。1840年代にアドルフ・サックスがサックスを発明した当初から、高音域を出すためのオクターブトーンホールは、現在と同じく「ネック側」と「ボディ側」の2箇所にありました。しかし、当時はこれらを連動させるメカニズムがなかったため、2つのオクターブキーを音域によって押し分ける必要がありました。この、「二つのオクターブキーを持ったサックス」の時代はしばらく続きましたが、1888年、フランスの楽器メーカー、ルコント(Lecomte)社が、「1つのレバーを押すだけで、出す音域に応じて2つのオクターブホールが自動で開閉する機構」を開発しました。これによってオクターブの親指の操作が劇的にシンプルになり、現代のサックスにまで継承されています。この画期的なシステムは、アメリカのブッシャー社によるダブル・アクティング・メカニズムの開発などを経て、1900年前後(20世紀初頭)には、世界中のほぼすべてのサックスで標準仕様となりました。
次の大きな進化は、1947年に発売された、セルマー社の「スーパー・バランス・アクション(SBA)」に採用された、「オフセットトーンホール配列」でしょう。それまでのほとんどのサックスは、トーンホールが楽器の管体に対してほぼ一直線に並んでおり、B♭、B、C♯(メーカーによってはCも)のトーンホールが、ベルの左側にありました。それゆえに、ベルのトーンホールは奏者の太ももに触れ易く、また左手小指による低音部のテーブルキーは、「右側に押す」という力の入り難い操作を強いられていました。セルマー社は1935年発売の「バランスド・アクション」から、ベルの低音のトーンホールを右側に配置し、操作性を向上させる人間工学的アプローチを始め、1947年発売の「スーパー・バランス・アクション」で、右手側と左手側のトーンホールの中心軸を約15度ずらし、手の形に合わせたキー配置に進化させました。この機構は次のMark VIのよって洗練・確立され、サックスの機構の標準形となりました。今ではサックスの低音トーンホールは、当たり前のようにベルの右側に着いており、左手小指は、左側に引くという、力もスピードも両立できるキー操作になっています。
管楽器で数々の画期的発明をしたCONN社は、同社のサックス、「New Wonder」や「6M」に、ネック先端のドラムを回すだけで、マウスピースを抜き差しせずにチューニングできる、マイクロ・チューニング・デバイスを搭載しましたが、普及はせずに消えていきました。また全盛期の6Mのトーンホールは、穴の先端が丸く折り返された「ロールド・トーンホール(カーリング・トーンホール)」という構造を採用し、これによりパッドの密閉性が高まり、コーン特有の太くファットで柔らかいサウンドを生み出す要因となりました。ロールド・トーンホールは、現在でもいくつかのメーカーのモデルに採用されています。
サックスのメカニズムの進歩は、現在でも止まっていません。Eastman(イーストマン)社の「52nd Street」シリーズのテナーサックスに搭載されているDSメカニズムは、スムーズで軽いキータッチ、調整不要な耐久性を実現するために開発された新機構で、イーストマン社傘下である老舗フルートブランド「Hannes(ヘインズ)」のチーフ設計者が、フルートの精密なキーワーク技術をサックスに応用したものだそうです。サックスのメカニズムの進化は、まだまだ続きそうです
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