コーン社が開発し、とても短命に終わったサックスに、「ストレッチソプラノ」という楽器があります。このストレッチソプラノについて深掘りし、サックスの進化の系譜について考えます。
1928年から約2年間のみコーン社(CONN)によって製造された、非常に短命なモデルが「ストレッチソプラノ」です。「Conn 18M」と名付けられたこのサックスは、Conn-O-Sax(コーン・オー・サックス)やFメッツォソプラノとほぼ同時期に、コーン社の技術研究所が開発した斬新な製品の一つです。「ストレッチ」の名の通り、通常のソプラノよりも長く細身で、ボア径や全長、キーレイアウト等すべてが再設計され、音色や音程、そしてコントロール性の向上を目指しました。マウスピースは専用のものが必要で、通常のソプラノ用のものより5ミリほど短くなっています。音程の安定度が高いクラリネットを目指して設計されましたが、結果的にそれほどの性能が出せず、かつ世界恐慌直前の時期に実験的に作られたモデルで生産数が非常に少なく、世に受け入れられることなく2年ほどで製造中止となりました。現存する個体も少なく、希少なヴィンテージサックスとなっていますが、サックスそのものに加えて専用マウスピースも希少で、現行のマウスピースを短く加工して、演奏に使っている奏者もいるそうです。
コーン社は多くのユニークなサックスを開発し、発売した管楽器メーカーとして知られていますが、コーン社のみがサックスの改良に積極的だったわけではありません。1840年代にアドルフ・サックスによって発明されたサックス、正式な呼称はサキソフォン(サックスの管楽器の意)は、アイデアと技術の集大成であり、「近代楽器」の始まりです。それゆえに、サックスは時代と技術の進歩とともに、大きく変化していきます。1948年、セルマーはスーパーバランスド・アクション/ SBAでオフセットトーンホールレイアウトを採用します。それまで楽器左側に付いていた、C♯、C、B、B♭のトーンホールが右側に移動し、左手小指の操作が容易になりました。現在のサックスはほとんど皆、オフセットトーンホールです。2012年頃、サックスブランドのio(イオ)はセライバフリーシステムという、ネックからの水滴の流れをコントロールし、左手のトーンホールから出てこないようにする機構を開発しました。発売当初は話題となりましたが、サックスの演奏姿勢でこの問題はおおむね防げるため、標準技術とまではなりませんでした。1923年、「52nd Street」シリーズで有名なイーストマン社は、傘下の老舗フルートメーカーであるW.M.S. Haynes(ヘインズ)の主任デザイナーであるデヴィッド・シパヌイ(David Schipani)氏のノウハウをフルに活かして、サックスでありながらフルートのような精密さと操作性を備える、「DSメカニズム」をサックスに採用しました。DSメカニズムでは支点の位置の再設計により、シャフト回転の抵抗を低減させ、左右の手のキーの動きが驚くほど滑らかで軽くなっています。また厚みのあるソリッドな極細角足(Solid square feet)構造を採用し、ガタつきのない安定性と、長期間狂い難い精密な調整をキープします。台湾のサックスメーカー、Pモーリアのサックスの最新ネック、Super VI(スーパー・シックス)ネックの内部にはらせん模様が彫り込まれており、:レスポンスの良さと深みのある響きを両立しています。
歴代のサックスに採用された新技術は、大小さまざまなものが膨大にあります。私たちの大好きなサックスは、工夫と技術の最先端の楽器なのです。
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