オットーリンク・ダブルリング、ニューヨーク・マイヤー、セルマー・ショートシャンク、ブリルハート・エボリン等、今でもサックス奏者に愛されているヴィンテージ・マウスピースは数多くあります。しかし、これらのほとんどはジャズ向けのマウスピースです。知る人ぞ知る、クラッシックサックスのマウスピースのゴールドスタンダードと呼ばれていた、「チャールズ・シェドヴィル」のマウスピースについてお話しします。
チャールズ・シェドヴィル(Charles Chedeville)のマウスピースは、1920~1930年代のクラシックサックス、クラリネット奏者たちにとってのゴールドスタンダード(金字塔)と呼ばれ、その豊かな響きは多くの奏者を魅了しました。シェドヴィル社は、1920年代初頭にフランスのパリでチャールズ・シェドヴィルによって設立され、クラリネットとサックスのマウスピースを製造しました。最初の製品広告は1924年に発行されており、まさにセルマーやヴァンドレンのマウスピースと同時代です。同社は当時の多くの木管楽器メーカー、特にビュッフェ・クランポンのためのマウスピースも製造し、かつ他のマウスピース工房向けにロッドラバーブランク(型で成型した、ハードラバー製の仕上げ前のマウスピース素材)も製造していました。この時期にシェドヴィル社が製造したマウスピースには、同社が独自開発した超共鳴プレミアムロッドゴム(ハードラバー)が使用されており、その独特な甘く深みのある音色と、クリスタルのように澄み渡った響きが高く評価され、「フランスのマウスピース製造の黄金時代」、と言われました。この時期のシェドヴィル・マウスピースのオリジナルのヴィンテージ品は、市場に出回ることが滅多になく、コレクターやプロ奏者の間で極めて高値で取引される、「幻の逸品」となっています。アメリカの著名なクラリネット奏者ハロルド・ライトらが愛用したことでも有名です。
シェドヴィル社の活動は、第二次世界大戦により大きく混乱してしまいます。戦後のフランスの国策が、再建と再生に深く没頭したことで、ゴム産業のビジネスモデルが根本的に変わり、原料の変化と製造形態の進化と相まって、ハードラバー材製品としてのマウスピースは多くの魅力を失い、1949年、シェドヴィル社はフランス・パリに拠点を置く近代的なマウスピース製造会社、「ルランデ(Lelandais)」に売却されました。その後、クラリネット奏者であり化学者であるオマール・ヘンダーソン博士(Dr. Omar Henderson)がシェドヴィル・ブランドを引き継ぎ、綿密な歴史調査の末、オリジナルのシェドヴィル・ロッドゴム材料を再現し、かつ最先端の製造機器を用いて、多くのシェドヴィル・マウスピースを再現しました。しかし事業を引き継ぐ後継者がいなかったため、ヘンダーソン博士はシェドヴィルの新しいオーナーを探し、ブランドへの敬意を共有し、マウスピース作りにおける本物らしさへの情熱を共有する人物として、Jodyjazz Inc.の創設者兼オーナー、ジョディ・エスピナ(Jody Espina)に巡り合います。2018年春にJodyjazz社によるシェドヴィルの買収が完了し、現在はJodyjazzの工場でシェドヴィル・ブランドのマウスピースは製造されています。2020年にはJodyjazz社はルソー社を買収し、クラリネット用マウスピースはシェドヴィル・ブランド、サックス用マウスピースはJodyjazzブランドという基本体制で活動しています。第二次世界大戦前の伝説的な「シェドヴィル・ラバー」の配合を再現し、伝説のヴィンテージ品をデジタルスキャンし、最先端のCNC高精度機械と熟練職人のハンドワークによって、高い一貫性で製造されたシェドヴィル・マウスピースは、現代の奏者にも高い評価を受けています。
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