サックスという楽器は、各所に消耗部品が使われているため、高い頻度で部品交換が必須な楽器です。加えて、使用(演奏)という行為が、サックス特有の複雑なメカニズムの劣化にも繋がるため、「バランス調整」というメカニズム補正も定期的におこなわなければなりません。そんなサックスの究極のメンテナンス、「オーバーホール」について掘り下げてみましょう。
オーバーホール(Overhaul)とは、機械製品や設備を部品単位まで分解し、清掃・点検・部品交換・再組み立てをおこなって、新品時の性能状態に戻す作業のことです。一般的には「分解掃除」とも呼ばれますが、管楽器の場合は必ずしも、部品の分解組み立てが伴うわけではありません。サックスのオーバーホールは、「新品の状態に出来るだけ近付ける作業」、と考えて良いでしょう。
サックスのオーバーホールは5年から10年の間に一回、というのが一般的と言われています。もしくは、長期間の保管で眠っていたヴィンテージサックス等を、演奏可能なサックスとして蘇らせる、というような場合もあります。オーバーホールで「絶対」なのが、「全パッド交換」です。消耗品であるパッド(タンポ)を、全部いっぺんに新品に変えます。長年の使用により、部分交換されたり、傷みが偏ったパッド達を一度に交換することでリセットし、今後のパッド交換・調整の頻度を減らし、かつ適正なタイミングにします。パッドと同様に、フェルトやコルク等の消耗品も新品に交換します。また全分解調整もオーバーホールの作業領域です。キー、キーガード等をすべて分解し、汚れを取り除いたうえで再組立てし、ベストな状態に調整し直します。全バラシしますので、この際管体のケミカルクリーニングもおこないます。洗浄用の薬剤に浸し、日常のメンテナンスでは除去出来なかった汚れを洗浄します。徹底してクリーニングすることで、今後の錆びやカビの発生を防ぐことも出来ます。気密性に不具合が出ている場合は、2番管、U字管、ベルの接合も外し、接着剤やハンダで付け直す場合もあります。ニードルスプリング(針バネ)も、反発力の低下や変形などの、劣化が見られる場合は交換します。管体に歪みが出ている場合は、この修復もおこないます。サックスは円錐管の片側にトーンホールが偏っているため、長年使用すると金属素材の伸び縮みにより、微妙に直線性に歪みが出てきます。オーバーホールでは、こんな歪みも見逃さずに修復します。同様に、トーンホールの平面性に歪みが出ている場合は、「ファイリング」という作業をおこない、平面性を修復し、パッドがしっかり密着するようにします。ファイリング・プレートという平滑な金属円盤で狂いを見つけ、削ったり叩いたりして平面性と真円性を復活させます。これはかなり技術のいる作業です。サックスのサウンドや演奏性に深くかかわる箇所は、このように細かく修繕・修復しますが、あまり音に変化をもたらさない小さな打痕(へこみ)や歪みは、オーバーホールでは「要相談」となります。「キレイさの再生」は、一般的にオーバーホールの範疇外です。同様に研磨や再メッキも、一般的にはオーバーホールの守備範囲外です。
サックスのオーバーホール費用の目安、は7万円から10万円ほどとなっていますが、上記のように作業の内容によって費用は増減します。リペアマンに、「オーバーホール、よろしく!」、で済む案件ではなく、リペアマンと依頼者が、お互いに作業内容を細かく確認しあって依頼するものです。両者が綿密に話し合い、そのサックスをどうするかを決めた上でおこなうのが、適正なオーバーホールです。
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