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サックス 演奏

Written By: sax on 8月 21, 2019 No Comment

サックスは比較的取っつき易い管楽器だと言われています。しかし、そうは言っても奥深い技の世界は存在します。多くのトップサックス奏者たちは、そんな超絶テクニックをいとも自然に繰り出し、自らのサウンドに豊かな表情を加えています。今日はそんな「技」についてお話します。
 「サーキュレーション・ブリージング」という技があります。日本語では「循環呼吸」と呼ばれ、音を鳴らしながら息を吸う、という特別な呼吸法です。肺の息が残り少なくなった時点で、口腔の中にある程度の量の空気を貯め、その空気を頬の筋肉で押し出すことで楽器の音を持続させ、その隙に鼻から肺に瞬間的に空気を吸い込みます。これを繰り返すことで、 楽器の音は延々と途切れずに鳴り続ける訳です。フルートやトランペットなど他の管楽器でもこの呼吸法を演奏に使うプレーヤーはいますが、やはり楽器をそれなりの音量で鳴らし続けるのは難しく、ライブステージでの演奏のカデンツァ等で「飛び道具」として使われるケ ースが多いようです。ソプラノサックスで有名なケニー・Gが、45分47秒の超ロングトー ンでギネス記録を持っています。非公式にはローランド・カークによる2時間21分が最高記録です。現在では訓練法や教則本等も数多く出回っており、アマチュアでもマスター可能な技術になっています。
 サックスの通常運指の範囲を超えた高音域の音を、特別な運指と喉のコントロールで出すことをフラジオと言います。

 また、運指の音の2倍音、3倍音等を喉の形や息の方向のコントロールで出すことをオーバートーンと言います。「オーバートーンはサックスの音質を豊かにするための大事な練習です」、とデイブ・リーブマン巨匠は言っています。このフラジオとオーバートーンのテクニックを組み合わせてマスターすると、サックスの音域の 1オクタ ーブ以上高域の音を、自由に出すことが出来るようになります。極端な例では、サックスで指を動かさずに高域の音階を上がり下がり出来るようになるらしいです。究極の技巧派サックス奏者、故マイケル・ブレッカーは、テーマだろうがソロだろうが、どうやって出してるんだろうという音域の音を「ピューピュー」出しています。喉のコントロールが出来ないと吹けないようなフレーズを、バンバン吹いています。是非聴いてみてください。
 サックスのサウンドは「タンギング」が命と言っても良いでしょう。どんなに良い音でも、 音の出だしが不明確だったり、タイミングが外れたりしていれば、美しい「フレーズ」にはなりません。上級タンギング技術には、ハーフタンギング、スラップタンギング、ダブルタンギング、フラッタータンギング等がありますが、これらのタンギング技術をマスターするというよりも、これらの「発音特性」を必要とする音楽表現をマスターする、と考えるのが妥当でしょう。技術優先で考えると、タンギングは目的と手段が逆転しがちなので気を付けましょう。バカっ速いフレーズの練習をしていたら、知らぬ間にトリプルタンギングをしてた、なんて怪談(?)を聞いたことがあります。

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Written By: sax on 8月 7, 2019 No Comment

「テナーサックスは、人間の肉声に最も近い楽器」、と良く言われますが、ベン・ウェブスターのテナーサックスのサウンドを耳にしたら、「なるほど、なるほど」と100回くらいはうなずくでしよう。ベン・ウェブスターのテナーは、ときには囁き、ときには捻り、端ぎ、 鳴咽し、歓喜に吠え、咆哮します。
 スイング期の三大テナーとして、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤングと並び称されたベン・ウェブスターは1909年、カンザス・シティの生まれです。三大テナーに共通して言える特色は、メロディアスで流麗であることです。モダン・ジャズ期の多くのサックス奏者は、メロディアスであることを敢えて避けており、ある意味では聴きづらいジャズとも言えます。しかし彼ら旧世代のサックス奏者は、ヴォーカリストが歌うかの如く、メロディを感情たっぷりに演奏しています。単純ですが分かり易く、心地良いサウンドです。代表的なアルバム、「ソウルヴィル(SOULVILLE) 」は1957年吹き込みで、世はハード・バップ全盛期です。そんな時代に、大御所ウェブスターが放った実に直球な作品では、骨太なスウィング・サックスをたっぷりと聞くことが出来ます。当時気鋭の若手ピアニストだったオスカ ー・ピーターソンがサポートし、更にハーブ・エリスがギターで参加、ベースは巨匠レイ・ブラウンと、素晴らしいメンバーによるクインテット構成です。

 ベン・ウェブスターはプロデビュー以来、ベニー・モーテン楽団、フレッチャー・ヘンダ ーソン楽団、ベニー・カーター・バンド、デューク・エリントン楽団等、数多くの名バンドに在籍しましたが、デューク・エリントン楽団の花形ソリストとしていっきに有名になりました。三年間エリントン楽団で活躍したベンでしたが、なんと御大エリントンとケンカしてバンドをクビになってしまいました。その後は主に自己のバンドやセッションで活動し、数多くの名作を残しており、ベンにとっては「独り立ちする良い機会」だったのかもしれません。エリントン楽団では、伝説のアルト奏者、ジョニー・ホッジスとの出会いもありました。 ベンによれば、ホッジスこそが彼に、「サックスをどのように演奏したら良いか」を教えてくれた人物だということです。ビッグバンドのアルト奏者には、神のように崇められているホッジスですが、彼の流麗にして滑らかなフレーズや、包み込むように暖かなサウンドは、 確かにベン・ウェブスターに受け継がれているのかもしれません。
 ベン・ウェブスターというとオットーリンク社のメタルマウスピース、マスターリンク・フォースターを愛用していたことで有名です。この時代のマウスピースは現行のものと設計が異なり、かなりマウスピース全体が小さく、大きな音が出し難かったようです。その小さなマウスピースの中を大きくえぐったラージチェンバーによって、ベン・ウェブスターの豪快なサウンドが実現されていたようです。色々考えると、是非ベンには現行のパワー系のマウスピースを使ってもらってみたかったです。きっと、もの凄いサウンドを聞かせてくれたことでしょう。

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Written By: sax on 7月 24, 2019 No Comment

ある年代のジャズテナーサックス奏者は、目指すサックス奏者にこの人の名をあげないと、奇人呼ばわりされることがありました。ジャズテナーの聖人、ジョン・コルトレーンはそれほど「神格化」されていました。1955年、マイルス・ディヴィスのグループに加入し、世に名前を知られるようになってから、1967年に肝臓がんで亡くなるまで、まさにジャズ界を駆け抜けていったコルトレーンに関しては、短い期間だったにもかかわらず、多くの名録音とともに、多くの資料や逸話も残っています。「聖者」、ジョン・コルトレーンを振り返ってみましょう。
 多くの資料で、「聖者ジョン・コルトレーン」 という呼び方が好んで使われています。これは1966年の来日ツアーの際のインタビューで、「10年後、あるいは20年後に人間としてどう在りたいか?」という難解な質間に対し、「私は聖者になりたい」と答えたというエピソードから、このような呼称が定着してしまったようです。この短い引用を聞くと、イメージ通りにコルトレーンが、きっぱりと真顔で口にしたように感じます。が、現実はそうでもなかったようです。インタビューの録音では、この答えの後、コルトレーンはくすくす笑い、続いてコルトレーンの左隣にいた妻のアリスも笑いました。コルトレーンの真意を測りかねた通訳は「聖者になりたいですって?」と聞き返しましたが、これに対してコルトレーンとアリスからさらなる笑いが起こり、コルトレーンは「その通り」と答えた、とのことです。つまり、「私は聖者になりたい」は、ほとんど冗談だったと推測されます。しかし後の1957年春に、長年の中毒からヘロインを断った際、彼は「音楽によって人々を幸福にする」という願望を神に願い、誓ったそうです。「聖者」のような崇高な存在を目指していたのではなく、「聖者のように」人々を幸せに導ける音楽家になりたかったのは冗談ではなかったようです。

 10年という短い間に、コルトレーンは多くの変化を遂げました。常にフォルテッシモで速いパッセージばかり吹き続ける、「シーツ・オブ・サウンド」の時代。コルトレーン最大のヒット曲となった「マイ・フェイヴァリット・シングス」でのソプラノ・サックスは、コルトレーンの定型パターンとなりました。アルバム「至上の愛」では、コルトレーンのモー ド・ジャズは極限にまで達し、調性にとらわれず、あらゆるスケールを縦横無尽に使うスタイルを実現しています。そしてアルバム「アセンション」では完全にフリー・ジャズの演奏スタイルとなりました。そんな大きな変化の中で、コルトレーンは常に楽器に対しても、音楽に対しても「生真面目」を貫き通しました。人一倍練習をし、楽器を研究し、音楽理論を突き詰める、という一連の姿勢は他のミュージシャンを圧倒していました。マウスピースをいじり過ぎて、ダメにしてしまったことも頻繁だったようです。名盤「バラード」は、手持ちのマウスピースを皆ダメにしてしまい、反応の悪いマウスピースでバラードしか吹けなかった、という逸話も残っています。本当なのでしょうか?

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Written By: sax on 6月 26, 2019 No Comment

松本英彦は「日本のジャズ」を作ったミュージシャン達のひとりで、日本のジャズの歴史に残る偉大なテナーマンです。1926年岡山県に生まれ、18歳でプロ活動を開始、いわゆる「米軍キャンプ」のバンドを経て、日本のジャズブームの中心となる「ビッグフォー(ジョージ川口(ds)、中村八大(pf)、小野満(b)、松本英彦(ts)」で活躍することとなります。日本ジャズ界への多大な貢献を評価され、1991年には紫綬褒章を受章しています。肺ガンの手術後の医療ミスが元で全身麻痺となり、3年近い闘病生活の末、2000年に73歳で亡くなりました。
 ニックネームは「スリーピー松本」。細い目が演奏中に眠っているように見えるからとか、コンサート中にピアノの横で居眠りをしていたから、とも言われているこのニックネームは、常に温厚な微笑みを絶やさない、大きな包容力を感じさせずにはいられない松本にとって、最適のニックネームだったことでしょう。第二次世界大戦終了後、それまで禁止されていた欧米の音楽が怒涛の如く日本に流入し、それに刺激を受けた多くの若い演奏家たちが「バンドマン」となりました。米軍キャンプのパブやダンスホールで演奏し、本物のジャズを勉強しながら、自己の技量を向上させて行きました。その背景には、敗戦日本政府が米進駐軍の要請に応えるかたちで始めた、演奏家の派遣業務があります。国内の演奏家を集め、米軍キャンプや基地、ホテルに設けられた米軍高級将校や軍属の宿舎に派遣し、演奏させる業務です。プレイヤーの絶対的不足により、日本人プレイヤーたちはそれなりに歓迎され、多くの演奏場所がありました。それゆえに極端に言えば、楽器をもってさえいれば、何かしらのバンド仕事にありつける状況だったようです。そんな玉石混合の状況の中から、スリーピーたちのような「本物」が巣立ち、日本のジャズを作り上げていったのです。

 松本英彦のサウンドは、あくまで太く、温かく、スムースな正統派のテナーサウンドです。奏法も、「呼吸するように」自然で無理のないものになっています。息の吹き込み、ブレス(息継ぎ)、タンギングを、まるでサックスが自分の声であるかのように歌っています。これほどスムースなテナーの演奏は、世界的に見てもそれほど多くはないでしょう。彼は多くの後進にサックスのレッスンをおこないましたが、指導を受けた多くのサックスプレーヤーが、彼の論理的で無駄のない奏法や、練習法の合理性に驚嘆したと述べています。スリーピーは1979年に購入した、HセルマーのマークVII GP(ゴールドプレート)をずっと愛用していました。後期のマークVIIで、かなりSA80系の技術も採用されていそうです。マウスピースは主にベルグラーセンのメタルで、典型的な「豪快テナー系」です。

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Written By: sax on 6月 19, 2019 No Comment

サックスのサウンドの源は、言うまでもなく先端のマウスピースに装着されたリードの「振動」です。奏者の息のエネルギーで発生したリードの振動が、マウスピース、ネック、サックス本体へと伝わり、最終的にサックスのサウンドに変化して聴衆へと届きます。ですので、サックスのサウンドを考えるときには、「振動」を考えることが不可欠です。
 「音のエネルギーをロス無く楽器に伝える」、はサックスにとっての永遠の課題です。古くはアメリカンセルマー製マークVIで採用された、「U字管をはんだ付けする」という手法がありました。接着剤やネジによる締め込みが一般的なU字管の接続を、金属はんだでロウ付けし、振動の伝達率を上げ、かつ息漏れを最小限にしようというアプローチです。これによって、「さすがアメセルは反応が違う!」と言わしめたようですが、今の製造技術で考察すると、必ずしも効果があるかどうかは分からないようです。このU字管のように、サックスには沢山の「つなぎ目」があります。そしてそこの接続を密にすれば、きっと良い音がする、というのが「振動伝達」のコンセプトです。

 サックスのつなぎ目には、リードとマウスピースをつなぐリガチャー、ネックコルクを介したネックとマウスピースの接続、ソケット構造によるネックと本体の接続、そしてU字管があります。「振動伝達」を考えると、サムレストやサムフック、ストラップリングのような、「ここから振動が逃げる」、という場所もありますが、今日は置いておきましょう。リガチャーの種類や構造に関しては膨大なバリエーションがあり、単なる振動伝達に留まらず、振動の成分を調整する発想のリガチャーも少なくありません。ネックコルクの振動伝達改善には、最近多くのアクセサリーが発明されています。「小判型」の金属板をマウスピースとネックの金属部に渡して、マウスピースの振動を積極的にネック側に伝えるアクセサリーが人気のようです。またリガチャーから伸びた金属棒をネックに触れさせ、リードの振動をネックに直接伝えようとするアクセサリーもあります。炭素系の超微粒子を特殊処理でオイルに溶かし込んで作られた、金属接合部の振動伝達性を向上させるオイル、というものもあります。ネックジョイントだけでなく、リガチャーや本体のネジ部に注しても効果があるようです。U字管のはんだ付けも、接合に使うロウ材(溶かす金属)の成分を変えることで、音の伝達効率や、伝達する音の成分をコントロールする技もあるようです。同様に、ネックコルクをネックに巻き付ける際の接着剤も、ゴム系の接着剤を避け、常温で硬化するシェラック(パッドをカップに接着するもの)を好んで使うサックスプレーヤーも多いようです。「振動」の事を考え始めると、ほんと、「しんどお」いです。あは。

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Written By: sax on 6月 12, 2019 No Comment

2007年の年が明けて間もない1月13日、多くのジャズファンを呆然とさせた彼の突然の死。偉大なジャズテナー奏者でありEWI(エレクトロニック・ウィンド・インストルメント)奏者のマイケル・ブレッカーが、骨髄異形成症候群から進行した白血病のため亡くなりました。死のまさに直前まで、マイケルは最前線で時代の音楽シーンをけん引していました。生まれ持った才能と弛まない努力によって、彼は最高の技術とセンスで、素晴らしい音楽世界をファンに届けてくれました。
 ブレッカー・ブラザーズやステップス・アヘッドといつた、兄、ランディ(Tp)と共同リーダーを務めたバンドでの活動に加え、自己のリーダーバンド、スタジオ・ミュージシャンやツアーバンド・メンバー、フィーチャード・ソロイストとしての活動も幅広く、関わった録音も多様なジャンルに渡り、その数は1,000を上回ると言われています。マイケル・ブレカーを「20世紀を代表するテナーサックス奏者」と言っても、誰も異論は唱えないでしょう。57歳で亡くなる直前まで新作のレコーディングを進めており、そのアルバム「PILGRIMAGE」が遺作となりました。病室にEWI等の機材を持ち込んで、レコーディングを続けていたそうです。彼の正確無比なサックステクニックは、比べられる奏者もいないほどの至高のテクニックであり、一部のファンには「機械的過ぎて冷たいサウンド」とも言われましたが、没後発表された『UMO JAZZ ORCHESTRA WITH MICHAEL BRECKER LIVE IN HELSINKI 1995』では、キャリアの集大成を迎える絶頂期のマイケルのサウンドが熱くうねりを上げており、兄、ランディ・ブレッカーも、「マイケルの最高のプレイのひとつだ!」、とそのクォリティの高さに驚愕したと言われています。

 ファンクやフュージョンジャズと呼ばれるジャンルで主に活躍したマイケルは、いわゆる「電子化サックス」の先駆者でもありました。バーカスベリー社のリード貼り付け型ピックアップ、モデル1375を1970年代のブレッカー・ブラザーズで使用しており、また1980年代にはネックに穴をあけて装着するピエゾタイプのピックアップをラックタイプのシンセサイザーに接続して演奏しています。「Steps Ahead」の1986年の厚生年金会館でのライブでは、EWIの前身である「スタイナーホーン」を吹いており、サンプラーや複数音源を駆使した一人オーケストラ的演奏は必聴です。1988年には本格的にAKAIのEW11000を使用し始めています。当時ヤマハのメカキータイプのサックスシンセサイザーWX7も発売されていましたが、マイケルは静電タッチキータイプの AKAI製を終始使用していました。スピーディーな運指を突き詰めるには、触れるだけで感知される静電タイプが向いているとのコメントも残しています。
 マイケル・ブレッカーのことを書き始めると、まったく紙面が足りません。とにかくマイケル、凄いっす!

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Written By: sax on 5月 29, 2019 No Comment

日本のジャズ雑誌で「グロテスク・ジャズ」などと、とんでもない呼び方をされたこともあるジャズサックス奏者、ローランド・カークは1936年アメリカ、オハイオ州に生まれました。1975年に脳卒中の発作を起こし、右半身麻痺になりましたが、左手だけで演奏できるように楽器を改造して音楽活動を続け、1977年にインディアナ大学での演奏を終えた直後、二度目の脳卒中の発作を起こし42歳の若さで亡くなりました。彼は幼少期に、病院で点眼液を間違えられたことから両目の視力を失っています。小さな頃からトランペット、クラリネット、サックスなど、様々な楽器を手にしていた彼は、あるとき3本のサックスを同時に吹いている自分自身の夢を見たそうです。その夢に運命を感じた彼は、その後本当に3本のサックスを吹くための特訓に挑みました。そして、この3本サックスの同時演奏は彼のトレードマークとなりました。サングラスをかけた巨漢の黒人が、首から提げた3本のサックスを同時に吹く姿は、見た日だけで言ったら確かに異様で「グロテスク」だったのかもしれません。

 ローランド・カークは「マルチ楽器奏者」です。良くあるマルチリード奏者ではありません。一人で、サックス、フルート、トランペット、オーボエ、ピッコロ、ブルースハープ、イングリッシュホルン、などなど、多種多様な管楽器を卓越した技術で演奏します。そのうえ同時に数本のリード楽器を吹き、鼻でフルートを鳴らしながらスキャットを口ずさみ、同時に手回しサイレンやホイッスルを鳴らします。しかも、息継ぎの無音時間を無くす高度な演奏技法である「循環呼吸」をも実践し、音が絶えることなく響き続けます。こう紹介すると、フリージャズ系の無秩序なサウンドの洪水をイメージされる方が多いと思いますが、ローランド・カークのサウンドは違います。メロディアスで、ファンキーで、立体的なハーモニーを持っています。同時に吹く楽器のすべては、完全に彼の意思のもとにコントロールされ、リズミックに和音を構成する「ひとりオーケストラ」になっています。彼の音楽を一度でも聴いたなら、「グロテスク・ジャズ」などという呼称とは180度異なっていることに気づくはずです。
 彼のサウンドは、独特なユニゾンとハーモニーを持ってミステリアスに響き、ユーモラスでありながら、どこか悲しみを宿したブルージーな響きを聞かせることもあれば、かたや肉声に近いサウンドと、エモーショナルなリズムによって、R&Bやソウル・ミュージック的なポップワールドを実現することもあります。まさにローランド・カークの唯一無二のサウンドです。その場のインスピレーションで曲も楽器も替えてゆくには、使える楽器をすべて手元に置く必要があり、合奏のタイミングを完璧に合わせるには、複数の楽器を同時に自分で吹く必要もありました。複数楽器のアンサンブルに自由度を与えるには、息継ぎをせずに息を出し続ける必要がありました。盲目の天才、ローランド・カークにとって、彼のスタイルは必然的な選択だったのでしょう。

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Written By: sax on 11月 28, 2018 No Comment

マイクスタンドにすっぽりはまり、床やテーブルから生えていたり、ブームで吊るされているものばかりが「マイク」ではないのはご存知かと思います。歌や声を集めるための「マイク」に対し、楽器の音を集めることに特化したマイクが多種あります。今日は、「管楽器専用マイク学」です。

 楽器用マイクを大別すると、接触型の「コンタクトマイク」と、楽器装着型の「クリップマイク」とに分けられます。コンタクトマイクは、電子チューナーに付属している、楽器本体を挟み込んで、クリップのように取り付けるマイクが馴染み深いでしょう。クリップ形状なのに「クリップマイク」では無く、「コンタクトマイク」だなんてややこしいですが、楽器そのものにマイク集音部が接触するのが「コンタクトマイク」、楽器に固定器具で取り付け、楽器とマイク部の関係を密に、かつ固定的にするのが「クリップマイク」ということですので、見た目で誤解しないようにしてください。チューナー用のコンタクトマイクは音程を検出するだけの「音質はどうでも良い」簡易マイクですが、コンタクト型でコンサート品質のマイクも数多くあります。 1963年に世界で初めてピエソ圧電素子を使ったアコースティックギター用ピックアップを世に広めた楽器用マイクの老舗バーカスペリ一社は、楽器用コンタクトマイクを数多く開発しています。ギターのボディーやウッドベース、ヴァイオリンの「駒」に張り付けるマイクはもちろん、フルートのヘッドスクリューにマイクを仕込んだものや、サックスのリードに接着剤で張り付けるサックス用マイクも開発しました。1960年代以降には、サックスのネックに穴を開けてコンタクトマイクを仕込むのが流行ったようです。ヴィンテージ楽器の中には、ネックの「マイク用の穴」を塞いだ痕跡があるものに稀に遭遇します。アメリカセルマー社が販売した電子サックスシステム、VARITONEは、ネックにガッツリとマイクが溶接されており、そこからコントロールボックスを経由して、専用アンプにワイヤがつながっています。コンタクトマイクは楽器に接触してその音を拾うので、周囲の他の音が混ざらず、純粋に楽器からの音のみを増幅し、ワウワウペダルやコーラス等のエフェクターで電子的に音を加工する場合に適しています。
 現在のステージシーンでは、高性能なクリップ型のマイクが主流です。管楽器のベルの部分等に専用クリップでマイクのアームを留め、アームの角度や曲がり具合を調整して、マイクが楽器のベルの中央に向くようにします。スタンド式のマイクに対し、クリップ型はマイクをギリギリまで楽器の発音部に接近させることが出来、かつその位置関係を変化させずに、奏者が自由にステージ上を動き回ることが出来ます。ワイヤレスのシステムを使えば、奏者はうっとおしいマイクケーブルから解放され、ステージどころか客席にまで移動することが出来ます。ポップスやロック系の「目立ちたがりの管楽器奏者(?)」には必須のアイテムになっています。

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Written By: sax on 9月 5, 2018 No Comment

サックスは何故かうるさいとよく言われます。金管楽器にはミュートが使用できますが、サックスはその原理と構造上、高効率な弱音器は存在しません。いくつかの「サックス用ミュート」が製品化されていますが、トランペットのプラクティスミュート(練習用弱音器。他のミュートは音質を変える事が目的ですが、これは吹奏感を損なわずに、音を小さくすることが目的のミュートです)に比べたら、弱音の効果には雲泥の差があります。
 サックスは何故うるさいのでしょう。結論から言ってしまえば、発明者のアドルフ・サックスが「大きな音の楽器を作りたかった」からに他なりません。クラリネット等の木管楽器の高い操作性を持ち、金管楽器のダイナミックレンジの広さを兼ね備えた新しい楽器として、アドルフ・サックスはサックスいやサキソフォンを考え出したのです。彼の優れたアイデアによって、サックスは洗練された運指、発音の容易さでは、他の管楽器に類を見ない楽器となりました。ということで、「うるさい」という意味では宿命を背負ったサックスですが、ビッグバンドでも吹奏楽でも、「あ~!サックス隊、うるさい!」という言葉は聞いても、「ラッパ隊、うるさいよ。」というのはあまり聞きません。何故でしょう。その原因は、サックスが小さい音を出すのが難しい楽器だからです。

 金管楽器の音の源泉は奏者の唇です。自分の身体なので奏者は責任を持ってコントロールしています(かな?)。フルートの音の源はリッププレートの上に発生した空気の渦です。オーボエ等のダブルリード楽器のリードは細長いストローを潰したような形状です。で、サックスの音の源泉、リードの大きさはどうでしょう。大きいですね、広いですね。リードの面積はクラリネットも同様かもしれませんが、クラリネットとは本体の大きさや材質が違います。しかも管体が円錐状に広がっています。ね、サックスはどうやっても大きい音が出るんです。そして大きい音が出し易い分、小さい音が出し難いのです。アルトでもテナーでも、どんな種類のサックスでも、ピアニッシモの小さな音を出すにはかなりの技術が必要です。 「うるさいサックス隊」の原因が見えてきましたね。そう、彼らのほとんどは「下手なサックス隊」なのです(ごめんなさい!)。サックスの場合、小さな音が出せないという事は、楽器をコントロールできていないという事です。コントロールできていない音は、当然きれいな音にはなりません。だから音が大きく、汚い音で周りをイライラさせるのです。しかも注意されて気が付いても、彼らは小さい音を出すことが出来ません。それで余計周りをイラつかせます。そして、「サックスはうるさい」という「デマ」が広がるのです。
 サックス奏者は、ピアニッシモからフォルテッシモまでの音量のコントロールが出来るようになってから、人前で楽器を吹いたほうが良いのではないかと思います。それが「うるさい!」と言われないための秘訣です。うーん、分かっちゃいるけどキツイ結論ですね。(苦笑)

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Written By: sax on 8月 22, 2018 No Comment

最近、楽器のサウンドの音質を表現する際に、「豊かな倍音を含んだリッチなサウンド」などと、「倍音」という単語が頻繁に登場するようになって来ました。うーん、倍音って何でしょう?
 サックスの場合、「倍音」という単語は二系統の意味があります。ひとつは楽器のコントロールの訓練である、オーバートーン・トレーニングで言うところの倍音です。オーバートーンを日本語訳すると「倍音」となります。最低音のシ♭の運指でオクターブ上のシ♭、ファ、シ♭、レ、ファ、ラ♭、シ♭の音を喉のコントロールで出します。最初の音が基音、オクターブ上のシ♭が第二倍音。それに続いて第三倍音から第八倍音です。これらの倍音を喉のコントロールで意図的に鳴らすオーバートーンのトレーニングをすることは、幅広い音色を自分でコントロールすることへ繋がる重要な練習です。もう一つの倍音は、音の音質を作り出す「高調波」です。音は正弦波(サインカーブ)で解析できますが、基音だけの単純な音は音叉の音です。音叉の音にはほとんど倍音が含まれていません。これに対し、すべての楽器はそれぞれの個性ある倍音を含んだ複雑な波形の音を持っており、その楽器の音色、サウンドを生み出しています。オーバートーンでは第二倍音、第三倍音と整数の倍音しか扱いませんでしたが、楽器の構造によっては1.5倍音等、整数倍で無い倍音も混ざっています。

 音叉は「倍音を徹底的に抑制した楽器」です。通常は、どんな音も倍音を含む、というのが物理の法則です。さきほどのオーバートーンの話しに戻ると、「楽器が本来持っている基音と倍音を意図的に引っ張り出す」というのが練習の実際です。音響心理学的な研究では、偶数倍音は「精神的安らぎや安定」の効果があり、奇数倍音は「明瞭度の向上」の特性を持っていると言われています。クラリネットは円筒形の閉管構造であるため、主に奇数倍の倍音を多く含むため、シンプルで明瞭度の高い音色を持っています。サックスは管が円錐形であるため、偶数倍の倍音が豊富です。このため、サックスはフルートやクラリネットより倍音成分が複雑で、音色も複雑になっています。そう、倍音の種類や配分量でその楽器のサウンドが決まる訳です。
 整数倍の倍音は、音階の範囲内に入っていますので、基音に対してハーモニー(和音)の効果を発揮します。従って、整数倍の倍音が多い楽器のサウンドはとても音楽的です。逆に非整数倍の倍音は、いわゆるノイズになります。スネアドラムやシンバルなどの打楽器は非整数倍音が優位なため、基音の音程感が希薄です。同じ打楽器でもティンパニーは整数倍音が多いため、しっかりとした音程感を持っています。倍音は、料理で例えるならば、調味料やスパイスかもしれません。その量やバランスで、様々な味の料理、サウンドが作り出されます。そう、倍音を制する者がサウンドを制するのです。

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